月に舞う桜
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わりと、周りから「桜井さんは大丈夫」と思われている…らしい。
あたしは、変にプライドがあって、実は負けず嫌いで頑固だ。 だから、「大丈夫な顔」を見せる。 そりゃあ、気の置けない人たちには「大丈夫じゃない顔」も見せて、愚痴を吐くことだってあるけれど、最終的には「大丈夫な顔」を見せていたい。
だけど、本当は、プレッシャーに押しつぶされそうになるときが、ある。 新人が入るたびに、「この教え方で問題ないだろうか。理解してくれるだろうか。ドロップアウトしないで一人立ちしてくれるだろうか……いや、ちゃんと一人立ちさせなくちゃ」と、プレッシャーに襲われる。
誰に何を言われたわけでもない。 ただ、勝手にプレッシャーを呼び込んで、最初の1,2日は実は逃げたくなる。
それに、あたしは人見知りをするタイプだし、人に対する好き嫌いが結構あるほうだ。 だから、どんな新人が来るのか不安にも、なる。「手に負えないような奴が来ちゃったら、どうしよう」とか、「どうしても自分とそりが合わない人だったら、2ヶ月間どうやって乗り切ろう」とか考え始めればキリがない。 「立場上、こちらから積極的にコミュニケーションを取らなきゃ」とも思い、それがまたプレッシャーを呼ぶ。
もともと、新しい環境に入っていくのは得意じゃない。
クラス替えの時期、大学に入るとき、就職したとき……環境が変わるときには決まって、夜になるとさめざめと泣いていた。 別に、新しい環境が嫌なわけではなく、深刻に思い悩むほど不安なわけでもなく、泣くのはある種の儀式なのだろう。
泣くことによって、あたしは気持ちを新たにし、覚悟を決めるのだ。
儀式なのだと分かってからは、むしろ積極的に泣いてみることにした。
泣いて、「あぁ、あたしはやっぱり不安がってるし、プレッシャーなんだな」と自覚すると、少しすっきりする。
すっきりして、それから思い出すのは、YOSHIKIだ。
ライブで観た、ドラムソロのYOSHIKIの姿。 肉体的な痛みも精神的な疲労や苦しみもすべて振り切って、一心不乱にドラムを叩き続けるYOSHIKI。 「うわぁーーーーーっ!!!」と魂の叫び声を上げて、汗を飛び散らせながらスティックを振り下ろす、あの姿。
自分の内側に意識を集中させると、奥の方からYOSHIKIの姿が浮かび上がってくる。
それで、あたしは覚醒する。
そうだ、あたしは無敵だったんだ。 YOSHIKIが限界を超えてドラムソロをやり切るように、あたしだって、やればできるんだ。
自分に言い聞かせれば、いつしかそれは確信になる。
そうして、「大丈夫な顔」に戻る。 プライドも自信も過剰で、負けず嫌いで頑固。それが、あたし。 このあたしに、できないはずがない。
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