月に舞う桜
前日|目次|翌日
自由は、遠い。
これだけ科学技術と医学が進歩し、とりあえずは民主主義が確立され、生存権が保障されていようとも、それでもなお、自由ははるか遠い。
求めれば、それはさらに遠のき、代わりに黒い影を与えてよこす。
やっと手にしたと思って、離すまいと握りしめても、手を開いてみればそこには何もない。
何もないのは寂しかろうと、絶望がやって来る。
大きな岩よりも、小さな石ころ、あるいはほんの砂粒の方が、よほど絶望を引き寄せる。
辿り着いたと思えば、それは残酷な蜃気楼。 そして代わりに現れ立ち塞がるのが巨大な岩ならば、諦めもつくだろう。
けれど、足元にあるのはただの小石。
なぜ、進めないのだろう。
進めないのに、なぜ、中途半端な慈悲を与えられたのだろう。
「人間は自由という刑に処せられている」なんてのは、夢想家の戯言だ。 そんな刑に処してくれるなら、喜んで13階段を駆け上ろう。
|