月に舞う桜

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2010年02月25日(木) ToshI LAST CONCERT<2>

ToshI LAST CONCERT【武士JAPAN】Produced by YOSHIKI
の続き。


エアポートが終わり、ピアノを離れたToshI。

ToshI「それじゃあ次の曲は、アルバムのタイトルチューン。おめーたちの出番だぜー!」

ToshIが、客席向かってペットボトルの水を撒いた。2階から見下ろしていると、飛び散る水が本当に綺麗だった。おととしのZEPP TOKYOを思い出した。あれから、ずいぶんといろんなことがあったね。

ToshI「次の曲、武士(サムライ)JAPANいくぜ!!」

ステージと客席が一体になった。
この曲は元気なバリバリのロックだから、このときだけは、ライブをアコースティックに作っているのが物足りなかった。ギュイーンてギターの重い音があればもっと良かったのに。

ToshI「ありがとよー!! PATA、ありがとう。SUGIZO、HEATHも」

ここで、PATA、HEATH、SUGIZOは退場。

ToshI「じゃあ次は、どうしても俺にピアノ弾かせてくれって」

おお! いよいよプロデューサー様の出番ですな。

ToshI「俺の方が上手いから出てくんなっつったんだけど」

い、いや、いくら40年来の親友だからって、照れ隠しにそこまで言わんでも。いや、まあ別にいいんですけどね。仲良しだから勝手にやっちゃって。

ToshI「YOSHIKIー!!」

登場したYOSHIKIは、いつものライブよりラフな恰好だった。とてもリラックスした表情をしている。

ToshI「YOSHIKIは声が小さいんで、声聞きたかったら、しー!」

ToshIはそう言って、客席の「YOSHIKIー!!!」という歓声をなだめた。

YOSHIKI「小さくねーよ!」

抗議するYOSHIKI。
うん、小さくはないよね。でも、舌足らずな喋り方だから、何言ってるのか分かんないことがあるんよね。

YOSHIKI「なんかさ、楽屋で聞いてたら、今日は静かに行こうって言ってたのに……」
ToshI「しんみりとね」
YOSHIKI「なんかいきなり気合入ってない?」
ToshI「気合入っちゃった。あ、そうだ、気合い入れんの忘れてた。気合い入れて行け、こらーーー!!!」

普通に喋ってたのに、急に叫ぶToshIくん。
あ、あのー、気合い入れって、忘れてたとかそういうものなんですか。

YOSHIKI「このあと、バラードだから」
ToshI「あ、バラードか」

な、なんなの。この「気合入れ損」的な雰囲気は。

ここで三たびSUGIZO登場。

SUGIZO「話違いますよね」
YOSHIKI「話違うよね」

どうやら、ライブ前は「今日は静かに行こう」って話だったのに、蓋を開けてみたらえらく盛り上がっちゃってるのが「話違う」ってことらしい。

ToshI「こんなに可愛い奴らを前にしたら、こっち側につくぜ」

そう言って、キャーキャー歓声の途絶えない客席側に寄って、YOSHIKIとSUGIZOに対決姿勢を見せるToshI。

YOSHIKI「ToshIさぁ、一応Produced by YOSHIKI」
ToshI「あ、そうか。プロデューサー紹介するぜ! YOSHIKIーー!!」
YOSHIKI「じゃあ、とりあえず曲やりますか」
ToshI「はい、曲やりましょう」

いいねー、仲良しでほのぼのしたこの感じ。
ToshIがステージの後ろの方で、水だかハチミツドリンクだかで喉を潤していたら、

YOSHIKI「場を繋いでおいてくれって、うしろからの指示が。曲やって大丈夫?」
ToshI「大丈夫、曲やって下さい」
YOSHIKI「一応バックバンドなんだ、俺」
ToshI「世界一高いバックバンド……」

そ、そうですね。

YOSHIKI「曲、これでいいんだよね?」

YOSHIKIは、自分の前の譜面とToshIを交互に見ながら確認した。
何やるんだろう。っていうか、早くやれよ!

ToshI「うん、やろう」
YOSHIKI「難しいんだよね、これ」
ToshI「ちなみに、YOSHIKIがこれやろうって曲を持ってきたのは、おとといです」

ええっ、相変わらずボーカル泣かせな。
でも、それってつまり、Xの曲じゃないってことだよね。

YOSHIKIのピアノに乗せてToshIが歌いだしたのは……Unnamed Song。
この曲は、ToshIが歌ったら合うだろうねって、ずっとファンの間で言われていた。
VIOLET UKでは女性ボーカルの曲だけど、想像通りToshIの声がぴったりだった。ToshIをイメージして、Xの曲として作ったんじゃないかと思うくらい。まさにToshIの歌うバラード。ToshIの真骨頂!
……まあ、またきっちりカンペ見てるけどね。
途中から、SUGIZOのバイオリンが加わった。3人が織りなす、やさしく崇高な世界が広がっていた。

YOSHIKI「緊張した」
ToshI「緊張した?」
YOSHIKI「難しいよね、これね」

いや、あなたが書いたんですが、YOSHIKIさん。

ToshI「間違えちゃった。ごめんね」
YOSHIKI「いや、俺も危なかった」
ToshI「これ今、同級生の会話ね?」

そう言って客席を振り返るToshI。
こういう会話は楽しくて大好き。でも、さっきまでの壮大な世界がちょっぴり台無し??

YOSHIKI「知ってる? 元々ToshIってヴォーカリストじゃなかったんだよね。最初ギタリストで、ヴォーカリストが辞めちゃったんだよね」
ToshI「その次、YOSHIKIじゃなかった? だから辞めるしかなかったんだよ」
YOSHIKI「違う違う。最初、俺で、第二中学校と第三中学校に分裂して……」
ToshI「その話いっちゃう? 分裂じゃなくて、廃校と統合があったのね。新しい学校ができて」

あ、去年ららぽーとのインストアイベントで聞いた話だ。
ピアノにもたれて話すToshIと、にこにこしながら答えるYOSHIKI。

YOSHIKI「そうそう。で、くらちんがヴォーカルだったんだよね」
ToshI「くらちんがヴォーカルだったね。そこまで話すの? くらちんネタ? クラタくんね。接骨院の」
YOSHIKI「接骨院だったっけ?」

話がどんどんローカルになっていきますな。

ToshI「館山の。YOSHIKI、診てもらった方が良いんじゃないの?」
YOSHIKI「もう手遅れ。そういう次元じゃない。で、くらちんが辞めて、だれがヴォーカルやろうってなって、一応全員歌ったんだよね。俺も含めて。そしたら、ToshIが一番うまかった」
ToshI「YOSHIKIよりちょっとうまかったんだよね」
YOSHIKI「俺は声が高かったんだよ」
ToshI「当時はまだマイクスタンドを持ってなかったから、YOSHIKIが持ってる天体望遠鏡がマイクスタンドだったんだ」
YOSHIKI「俺、まだ声変わりしてなかったんだよね」
ToshI「声が高くて、かわいい。みんな、そんな素顔見たことないだろうけど、すごいかわいかった」

私の同級生にも、そういう男の子がいたなあ。彼はどうしているかしら。声変わりしてなくて、かわいい男の子が。

YOSHIKI「ToshIより身長がちっちゃくて」
ToshI「今は15センチ、20センチくらい高いけど、当時はひょろひょろで、もやしみたいだった」
YOSHIKI「ひよこって呼ばれてたよね、俺」
ToshI「そこまで言っていいの? それは、『YOSHIKI/佳樹』って本でも暴露してたよね」
YOSHIKI「今日は1000人しかいないから」
ToshI「いやいや、お茶の間でいっぱい観てるから。ここは1000人だけど、お茶の間に何千万人もいるから」
YOSHIKI「そうですね、はい。じゃあ次はToshIの曲で、これもね、急に弾けって言われて」
ToshI「いや、もう一か月前から送ってたって。30日には。おととい会ったとき『聴いた?』って訊いたら、『うん、まだ聴いてない』って」

おおぉ!! 出ました、ToshIによる「YOSHIKIものまね」が!!
「うん、まだ聴いてない」のところがね、YOSHIKIのまねをした口調だったんですよ。さっき話していた、声変わりしてないひよこのYOSHIKIみたいな口調で。めっちゃ、かわいいの!

ToshI「『聴いてない』って言いながら、『これ歌って』って。さっきのUnnamed Songっていう曲。本当はすごくいい曲……本当はって言うか……」

ついポロっと言ってしまった言葉に自分で苦笑するToshI。

ToshI「とりあえず、いい曲だよね」
YOSHIKI「まあまあだよね」
ToshI「この言葉、嫌なんだよね。ART OF LIFEっていう楽曲を3年かかってレコーディングしたの。ヴォーカル録りは約2年かかったわけ。で、終わった瞬間、できたね! ってみんなで喜んでたら、『まあまあだね』って」

あちゃー、厳しいのぉ。そりゃあ、ToshIくんもグレたくなるわな。……いや、グレたんぢゃないか。

ToshI「そのあと、みんなでYOSHIKIのスタジオをぶっ壊したの。嬉しくて」
YOSHIKI「表現方法が俺たち分かんないんだよね。とりあえず壊しとこうかって」
ToshI「『俺はこのためにスタジオを買ったんだあーー!!』って」
YOSHIKI「そこまで言ってない」
ToshI「言ったよ!」
YOSHIKI「言ったかもしれない。よく覚えてない」
ToshI「酔っ払って覚えてないんだよ」
YOSHIKI「はい」

うーん、相変わらずおもしろすぎるな、すみれ組コンビは。

YOSHIKI「じゃあ、そうですね。昨日ToshIとこれをリハーサルやって、自分でもすごいジーンと来てしまいました」
ToshI「ありがとうございます。40年つき合って、初めて褒められた」
YOSHIKI「ははは。今のヴォーカル良かったねって、たまに言うじゃん」
ToshI「ああ、たまにね。機械的にね。今の良かったんじゃない? って」
YOSHIKI「表現方法が分かんないんですよ」
ToshI「僕たち、仲良いもんね?」

うん、知ってる。
ToshIはわざとらしく言ったけど、本当に本当に仲が良いこと、知ってるよ。そりゃあ、もう、ラブラブだもんね!

YOSHIKI「じゃあ、曲いきますか」
ToshI「はい。本当に、YOSHIKIのサポートがあって、ここに立つことができました。そして、みんなのサポートがあって、歌うことができます。本当にどうもありがとうーーー!!! そんな想いを、YOSHIKIと一緒にやりたいと思います」

曲は、雨音。
YOSHIKIの抑えたピアノと、SUGIZOのバイオリン、そしてToshIのささやくような歌声。
ToshIが、泣いていた。泣いて、最初の方は声が上手く出ていなかった。

泣かないで。泣かないで。
もう、泣かなくていいよ。

本編はこれで終わりだった。
ToshIが「本当にどうもありがとう。また会おうぜ」と小さく言って、3人はステージを去った。

(続く)


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