月に舞う桜

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2008年04月04日(金) ★X復活ライヴ参戦記★ライヴ編(2)

出発〜開場編
ライヴ編(1)

XJAPAN 攻撃再開2008 I.V.〜破滅に向かって〜
3月28日(金) 破壊の夜

セットリスト↓(ソロコーナーは、過去のライヴを参考に私が適当にタイトルをつけました)
The Last Song(SE)
Rusty Nail
WEEK END
SCARS featuring HIDE
Silent Jealousy(guitar:SUGIZO)
HIDEの部屋with PATA,HEATH
Say Anything featuring TOSHI,PATA,HEATH
YOSHIKI piano solo
Without You(YOSIKI&TOSHI)
I.V.(guitar:SUGIZO)

ART OF LIFE(第2楽章まで)
Longing〜跡切れたMelody(SE)

HIDEの部屋が終わり、YOSHIKIが登場する前にかかるようなBGMが流れた。「次はドラム・ソロか!?」と思ったが、ステージに現れたのは予想に反してTOSHI、PAATA、HEATHの3人だった。
手を上げながら、「どうもありがとう!」と歓声に応えるTOSHI。この日、TOSHIは何度か「どうもありがとう!」と言ったが、その言い方は昔のX時代とは少し違って、もっと柔らかく、どこか一昔前のフォーク歌手みたいだと思った。これが、素に近いTOSHIなんだなぁ。

TOSHI「僕は10年間癒し系でやってきたので、一発目に叫んだとき、声がひっくり返っちゃった」

ええっ、そうだったっけ!? 全然気がつかなかったよ。言わなきゃ、分からんのに。
そのあとも、TOSHIは照れ隠しのように、わざと声をひっくり返してみせた。相変わらずお茶目なTOSHIくんだったけれど、もしかするとまだ少しこの空間に馴染んでいなくて、様子見の段階なのかもしれないと思った。何せ10年ぶりの東京ドーム、10年ぶりの5万5千人だもんね。

TOSHIは「10年ぶりなのに、こんなに集まってくれて……」と感慨深げに言い、PATA、HEATHと3人で椅子に腰掛けてSay Anythingのアコースティック・バージョンを披露してくれた。
実はこれ、Silent Jealousyと同じくらい聴きたかったんだ。
過去のライヴDVDの中で一番好きなのは、94年の東京ドーム「青い夜」と「白い夜」だ。その中で、TOSHIはソロコーナーでゲストにソプラノサックス奏者を呼んで、このSay Anythingのアコースティック・バージョンを歌った。次に、HIDEとPATAの3人でROSE OF PAINのアコースティック・バージョンをやった。いつにも増してTOSHIの歌の上手さが際立っていたし、「いつものXのTOSHI」とは一味違う素に近い彼の魅力が出ていて、とても印象的な2曲だった。
今回はその2曲を統合したような、「3人でのSay Anything」だった。

TOSHIの声、伸びる伸びる。
TOSHIに出会えてよかったよ。その声に出会えて、よかった。ものすごく悲しい思いもしたけれどね、そこを越えて、今TOSHIの歌を聞いている自分は間違っていなかった、と思う。断ち切らなくて、よかった。生きていれば、あらゆることは起こり得るんだ。

東京ドームは音が悪いという情報を聞いたり見たりしていたから、私はかなり覚悟をしていて、音そのものに関しては期待しないようにしていた。
でも実際は、東京ドームの音質に関して私はまったく気にならなかった(ときどき、各パートの音のバランスが悪いかな? と思うことはあったけれど、それがドームのせいなのか演奏の問題なのかは分からない)。
「東京ドームの音」に関してまったく不満を持たなかったのは、TOSHIの歌唱力によるところが大きいのではないかと思う。ライヴだとCDに比べて歌の完成度が低くなってしまい、その質の低下を生の音の迫力で補うことによって「それでもやっぱりライヴはいい!」となることも多いのではないか。だけど、TOSHIの場合は全然そうじゃなかった。CDに引けを取らないどころか、さらに伸びやかで感情がこもっている気がした。
今更ながら、「あぁ、この人って本当に歌が上手いんだ」と実感した。この10年間で、歌に深みが増したのかもしれない。

Say Anythingが終わって3人は退場、入れ替わりにYOSHIKIが登場した。
ピアノソロの前、いつものように赤い薔薇を客席に投げたけれど、笑顔の中にも陰りがあるように見えて、心がざわついた。
「ピアノソロ」とは呼べないかもしれないくらいの短いフレーズを弾いたあと、そのままWithout Youのイントロに続いた。再びTOSHIが姿を現し、二人でのWithout Youを初披露。
歌が入った形では初めて聴いた。シンフォニックコンサートでYOSHIKIが「この曲はTOSHIがいないとできないから」と言った曲。HIDEへのレクイエム、そして、YOSHIKIとTOSHIを再び結びつけた曲。YOSHIKIがHIDEのために書いた曲だけど、逆にHIDEが二人のためにYOSHIKIに書かせたんじゃないかと思う。
スクリーンには、HIDEを中心に、Xのデビュー当時からの映像が流れた。
ねぇ、この演出、反則でしょ? ただでさえ、この曲は泣いてしまうのに、これはもう号泣させようとしているとしか思えない。
普通、ステージ上で見せ場を作っているメンバーの名前が一番叫ばれるのに、Without Youのときは、ほとんどがHIDEコールだった。
HIDEはもういない。取り返しがつかない。でも、絶対にすぐ近くにいるはずのHIDEに向かって、みんな叫んでいた。その叫びに「何でいないんだよ、バカヤロー!」という気持ちが混ざっていたのは、私だけじゃなかった、と思う。
スクリーンもステージもこの目でちゃんと見たいのに、だんだん見えなくなって、曲自体もあまり集中して聴くことができなかった。これから何度だって、聴く機会はあるよね?

TOSHI「新生Xの曲Without Youを聴いてもらいました。次も新曲です」

YOSHIKIがピアノでI.V.を伴奏し、TOSHIがサビを何度か繰り返した。なかなか先に進まないし、やけに英語を分かりやすく歌うので不思議に思っていると、

TOSHI「YOSHIKIのリクエストで、ここをみんなに歌ってほしいそうです」

YOSHIKI、頷く。あぁ、なるほどね。
PATAとHEATHのコーラス部分を私たちも歌う、ということらしい。
で、しばらく練習タイム。同じところを繰り返す。YOSHIKIのピアノ伴奏でTOSHIの歌唱指導を受けられるとは、なんと贅沢な!
私たちが慣れてきたのを見計らって、だんだん曲が盛り上がりを見せる。そして、PATA、HEATH、SUGIZOが登場。
曲の間、ステージの後ろのスクリーン(ここにもスクリーンがあったんだ!)に歌詞が流れていた。TOSHIの英語の発音が上手くなったせいか、プロモを観ているだけでは歌詞がさっぱり分からなかったので、ありがたい。セットの柱か何かが邪魔で、私のところからは歌詞に見えない部分があったのが少々残念ではあるけれど。

続いては……紅のイントロだ!!!
赤ポンポンを持ち、その時点ですでに高かったテンションがさらに跳ね上がった。
歌の前のギターソロで、スクリーンにはHIDEが大写しになる。
そして、たぶん、この紅の途中からだったと思うのだけど、HIDEがステージ上に現れた。ホログラムというらしいけれど、HIDEの等身大の3Gが出現したのだ。
輪郭がぼわーっとしていて、HIDEが本当に降りてきたように感じられた。技術的なことなんて分からない。何がどうなっているのか分からない。でも、確かにHIDEはそこにいて、ギターを弾いていた。
予想を超えた技術と演出に驚愕している間に、曲は進んでしまう。他のメンバーも見なきゃいけないし、歌いながらポンポンも振らなきゃだし、TOSHIがマイクを向けて煽るから「腹から声出さなきゃ!」だし、忙しい。

花道に出てきたTOSHIが、サビの「紅に染まった〜」で私たちに向かってマイクを突き上げる姿を、私はずっとずっと忘れない。頭がくっつくくらいYOSHIKIの傍に寄って歌うときの、TOSHIの楽しそうな表情も。

1階スタンドから見下ろしたアリーナ席は、赤ポンポンで埋め尽くされていた。復活を祝して振られる紅い花。サプライズ企画が成功した瞬間だった。
ステージ上のメンバーたちは、気付いてくれたかな。気付いてくれたよね?

このライヴで悔いが残ったことの一つが、HEATHを観る暇があまりなかったことだ。
スクリーンの一つには常にHIDE。他のスクリーンにはメンバーがそれぞれ映っている。豆粒ほどにしか見えない、ステー上のYOSHIKI、PATA、HEATH、そして花道で歌う、やはり豆粒大のTOSHI。
どこもここも観たいけれど、いっぺんに全部は観切れない。それで結局、HEATHを堪能する余裕がなかった。でも、ちょっと観ただけでも、HEATHはめちゃくちゃ恰好良かった。10年経って、むしろ若返った気がする。
PATAはよく目に付いたんだけどなぁ。PATAは全然変わらない。メンバーの中でPATAが一番長生きするんじゃいかと、私は密かに思っている。まぁ、お酒で肝臓がやられていなければの話だけど。

紅が終わり、メンバーが退場。
しばらくアンコールの手拍子が続いたあと、スタンドでウェーブが始まった。このアンコール・ウェーブも、Xのライヴで絶対やりたかったことの一つ。
スタンドで何度かウェーブをやって、今度はアリーナ席にウェーブを促すため、アリーナ・コールが起こった。
そうこうしていると、メンバーが再登場。

そして、始まったのは……ART OF LIFE。

思わず耳を疑った。
ART OF LIFEは30分以上ある曲で、過去ライヴでは2度しか演奏されていない。TOSHIはちょこちょこ休めるからいいけれど、あとの人たちはピアノソロの部分以外ではギター弾きっぱなし、ベース弾きっぱなし、そしてドラム叩きっぱなしになる。
10年ぶりのライヴで、この曲をやるのか! この人たち、本当になんて無謀な奴らなんだろう。
これはYOSHIKIが倒れるな、1曲全部やらないかもしれない。そう思った。
ART OF LIFE演奏中は、全員がものすごく真剣になる。楽しそうな様子が微塵も感じられない。PATAとHEATHは直立不動でひたすら弾く。いつもはおどけて見せたり前に出てアピールしたりパフォーマンスしたりするHIDEでさえ、そうなのだ。
見ているほうも真剣になって力が入るが、直立不動のメンバーにはちょっと笑える。

曲のちょうど半分、第2楽章をTOSHIが歌い切り、YOSHIKIがドラムを叩く、叩く、叩きまくる……。

全ての力を振り絞ってドラムを叩き、そして崩れ落ちた。

沸き起こる悲鳴。
倒れることは予想していたものの、本当に倒れてしまったように見えたので、息を呑んでじっと見つめた。

TOSHIが「また会おうぜ!」と手を振りながら、PATA、HEATHと共に去って行った。
YOSHIKIはスタッフに抱えられ、運ばれていく。

少し待てば、YOSHIKIも復活して全員でまた出てくるのだと思った。
ところが、そう時間を置かずに「これにて本日の公演は終了いたします」というアナウンスが流れた。

あまりに無情な響きだった。
会場中から「えー!!」という叫び声が起こる中、私が事態がよく飲み込めずに呆然としていた。
開演して、まだ2時間弱しか経っていない。オルガスムも"X"も、ENDLESS RAINもなしってこと……?
暴れん坊将軍になるのはここからだ! と思っていたのに。
マラソンを全力疾走するつもりでいたら、突然目の前にゴールテープを引かれた。そんな感じだった。

客席には照明がつき、規制退場のアナウンスと共にLonging〜跡切れたMelodyのSEが流れていた。

私のXライヴ初参戦は、こうして唐突に幕を下ろした。


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© 2005 Sakurai Yuzuki