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B-SIDE DISC7 
杏子



 冬の情景

理事長は 私の参加しない飲み会があると


帰りのタクシーを捕まえるまでの

ほんの少しの時間を見計らって


必ず 一本 電話をくれる。



今から 帰るよ、と。



今日も そういうシチュエーションで


ひとり、自宅のお風呂の中で 


あぁ 今日は電話があるかもしれない。


と思い立って 


普段 ほとんど自宅では

携帯を放置している私ですが


お風呂上りに、それを鞄から取り出して 

そっと 傍らに置くのです。




案の定 


酔いを含んだ声で先程

コールがありました。



とっさに私は 


今日 伝えたかったのに

伝えるタイミングを失った言葉を 紡ぎます。



今日はとても、格好良かったですよ。



ん? 何が?



プレーです。 すごく格好良かった。



あはは。 

ありがとな。




惚れ直しましたもの。


それを今日 言えなかったなぁと思いながら

帰り道 家路に着きました。







今日は 就業後


理事長が若い頃に たしなまれていた

あるスポーツの練習会があって










私は 見学と応援を兼ねて

その会場に赴きました。



理事長の 弾く球は

美しいほどの軌道を描いて


ピンポイントで 落下点を突きます。



安定した下半身と 切れの良い体幹の回転

それに 逞しい腕の筋肉から生み出されるパワーは


球を捕らえたその瞬間に

爆発的なエネルギーの塊が 弾けるように

小気味良い快音と共に 美しい軌道を描く。



美しい と


ただ それだけを思いました。



この美しい フォームと

この美しい 球の起動を生み出す


この理事長と言う 一人の男に


私は 深く愛され

そして、深く 抱かれたのだ ということを考えると


体の奥底が 火照るような感覚を

禁じえません。



こういう私もまた 浅はかなオンナ だと

罵られてしまうのでしょうか。






一足先に 会場の誰も居ない休憩室に戻った私に


同じく 

他の生徒さん達より 一足先に戻った理事長。



おぉ… 寒い寒い。



と言いながら 私の傍らに寄り



一呼吸置いて


理事長の唇が 自身の唇に重なる。





その唇はとても 冷たかった。




冬の あたり前のような空気の冷たさを

こういう風に 共有することが出来る。



それは あまりにも抒情詩的すぎて


今日の 理事長の姿を

一層、鮮やかな記憶として 描き出すのです。






言いそびれた 格好良かった の言葉を


何度も何度も 電話口で紡ぐ私に


照れ笑いを含みながら ありがとう と繰り返す



愛しき人との 冬の情景。













2008年12月18日(木)
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