その夜、私たち地元の誰もが知っている、深夜喫茶でお茶をしながら、彼の心を開くことに専念した。 久しぶりに会う彼は、別人のようだった。 私は自分の近況を、やたらめったら話まくり、心の奥底に沈み込んで見える彼を捕まえるのに必死だった。 今、思い出しても胸が詰まる・・・。 痛々しい彼の表情は、私の想像を超えた何かがあったということが容易にわかるくらい酷かった。 「何から自信を付けさせたらいいのか・・・。」 私は考えて、考えて、考えて・・・下ネタで笑わすことにした。 だって、何を話しても暗い話で、彼を追い詰めるモノばかりだったし、私も批判めいたコトを口にしてしまいそうだったからネ。 ま、そうなると先は見えてくる。 幼なじみとは言え『男と女』だもの。
車の中での初めてのKISSは、信じられないくらい震えていた・・・彼がね。 目に涙を溜めてるのが、暗い車内でもハッキリわかった。 「こんなに心が病んでいるの?」 もー、私はガマンできなかった。 彼を抱きしめてあげたかった。母のように、姉のように・・・。 彼が結婚しているなんて関係なかった。 一人の人間として、こんなにも壊れてしまっている彼をほおっておけなかった。
そして数時間後、彼は私の上で泣いていた。
彼が女性を抱けなくなって3年。 今やっと、一歩歩けるようになったみたいだった。
それから私の、寝食を忘れる程のカウンセリングが始まった。 心身症特有の、時間の観念の欠如。情緒不安定。強い束縛・・・・・。 でも、そんなことくらい私には何でもないことだった。 確かに連日の夜中・早朝問わずの電話・メールには参ったけどね。 ま、私も24時間仕事する人だし、束縛も好かれているからと思えば苦にならなかったしネ。 他の人だったら、彼の相手は無理だったろうなぁと思うワ。 付き合い始めて4ヶ月で4000通のメールが送受信されたのには驚いたけど。 それでも表情が明るくなっていく彼を見ているのは、私にとって何より嬉しいことだったんだ。
そして、去年の私の誕生日の出来事に繋がっていく。
すでに私は、彼への想いと別れなきゃという思いで、少々ナーバスになっていた。 だけど、彼が名古屋に招待してくれるという。 思いっきり楽しまなくちゃ!! 食事もすごく美味しくて、もう最高!! ところが、ある本屋へ寄った時・・・・。
そこにはたくさんの『絵本』が置いてあった。 絵本を物色する彼。 ・・・・・彼は私を忘れていた。 子供のために絵本を物色してて、私と来ていた事を忘れてしまっていた。 私は恥ずかしげもなく、両目に涙が浮かんでしまった。 「今日はココに何しに来たの? 今日は何の日だったの?」 私は初めて、自分の立場を自覚した。
そんな楽しくて淋しい誕生日だった。
|