2008年08月11日(月) |
愛された思い出…「あたたかいみかん」 |
昨日からの続きになります。 引き続き、鈴木秀子さんの本↓からです。 「生の幸い、命の煌き」からです。
「愛された思い出」 (1部略し、強調はこちらでしました。 P16〜25からの引用)
彼が目を開いて、私と目を合わせました。 私は思わず、聞きました。
「なにか楽しい思い出はない?」 「ない」 「懐かしい人や親切にしてくれた人は?」 「ない。そんなの一人もいない」
突然彼は金切り声をあげ、 私の問いかけを頑固に否定し続けます。 私は彼の繰り返す悲劇の人生を受け止めることに 徹しようと決めました。
「これまで生きてきたけどさあ、 厭なことばっかりでさあ、 いいことなんかありゃしない」 「ずっーとたいへんだったのね、 辛いことばかりだったのね」
「はじめに行ったおじさんちでさあ、 働くだけ働かされてきつかっただけだ」 「最初のおじさんの家では大変だったのね」
こんなやり取りをしばらくしたあと、 ふと彼が明るい表情を見せました。 そんな表情に促されて、私はもう一度、 前にした質問を口にしました。
「誰か懐かしい人はいないの?」 「誰もいない、絶対いない。 みんなおれに辛く当たっただけだもん」 「そう、誰もいないのね。 人間は誰かに愛情をかけてもらわないと 生きていけないんだけど。 あなたがこうして今生きているということは、 きっとそういうことがあったからなのだと 思うけど…」 「いや、そんなことは絶対にない」
時間が大分たちました。
「みかんでも食べてみない」 ストーブの側に置いてあったみかんは ほんのり温まっていました。
私は大きいみかんを手渡すと、少年は 素直に両手で受け取りました。 そしていつまでも黙ってみかんを両手に包んで、 大事そうにしてます。 しばらく時間が過ぎました。
突然、少年が「あっ」 と声を出しました。
「このみかん、あったかい。 おばあちゃんのことを 思い出した」
そして、いきいきと夏樹君はこんな エピソードを語ってくれました。 彼の声は、今までと打って変って、 夏の緑の木の葉を渡る風のような すがすがしい響きに満ちていました。
彼が4歳だったころ、村に法事の寄り合いがあり、 祖母が出かけた夜のことでした。 夏樹君は、夜更けまで寝ないで 祖母の帰りを待っていました。
起きていた夏樹君を見ると、祖母はうれしそうに、 「ほら」といって着物の襟を開き、 懐からみかんをひとつ取り出して渡しました。
「そのみかん、 あったかかったんだぜ」 「おばあちゃんは法事で出たみかんを 食べないで、あなたのために 大事に持って帰ってきたのね。 おばあちゃんは、あなたのことを とてもかわいがっていたのね」 「うん、おばあちゃんは、とっても おれのことをかわいがってくれたんだ」
こういった時から、夏樹君の態度が がらりと変りました。
「あなたは誰も自分のことを大事にしてくれた 人なんかいないといっていたけど、 おばあちゃんだけは、あなたのことを とても大事にしてくれていたのね」 「うーん、でも、おばあちゃんだけじゃないよ。 転校した時の先生がとても優しくしてくれた。 ボクを横に立たせて、 「転校生だから、みんな仲良くしてあげようね」 といってくれた」 「先生も…」
「まだあるよ。 おじさんの家を飛び出した時ね、 駅まで来たけど、 切符を買うお金がなかったんだ。 駅員さんに「どこへ行くの」と聞かれて 「わからない」と答えたら、 その駅員さんは、 「普通、汽車に乗るときには、行き先が 決まっているものだよ」 と笑って、 「まだ汽車はこないから、 これでも食べてなさい」 とアイスキャンデーを買ってくれた。 食べてる間に気持ちが落ち着いて、 その時は家出をやめて帰ったんだ…」
夏樹君は、目をきらきら輝かせています。 明るい光が彼の体中からあふれている感じです。
「夏樹君、 あなたを大事にしてくれた人が 何人もいたのね。 愛された思い出があるってことなのね」 「うん、今まで気がつかなかったけど、 いっぱいあったんだ」
そう答える彼は、私の部屋に入ってきた時の、 無気力な少年と同じ人とは信じられないくらい、 いきいきとしてさわやかでした。
苦しい時は誰でも、人生には厭なことばかり起り、 それは避けられないと思いがちです。 しかし、生きているというそのこと自体が、 自分で意識するしないにかかわらず、 計り知れないほど、多くの人の思いやりや愛情、 温かさを受けていることの一つの証拠です。
あなた自身も知らないうちに、 そういった人を生かすことをして、 誰かのそういう存在になっているに違いありません。 人間の命は、自分だけのものではない、 深いところでみんなつながり合っているのです。
(ここまで引用)
とても心に残ったお話でした。 たとえ、小さな思いやりや愛情でも、 それが、誰かの心に残り、 立ち直るキッカケになったり、 生きる力になったりする… そんなこともあるのだと思いました。
夏樹君が、この後、 どんな若者に育っていったか、そこまでの 記述はありませんが、今までの生き方と 少しでも違った生き方を していったのではないかと思います。 そう合って欲しいと…。 愛されていた思い出があるのだから。
人はみな、生きていくのに、 多くの人の思いやりや愛情を与えてもらっている、 だからこそ、生きていられるのだと思いました。 回りにいる人に、思いやりと愛情をこめたい、 そうしみじみ思いました。
この本は、臨死体験の話なども載っており、 生きることを考えさせてくれる本です。 といっても、実話が多いので、読みやすく、 その話の一つ一つが心に残るので、 どんどん読めると思います。 おすすめの一冊です、機会があったら、 ぜひ、読んでみてくださいね。
この本でなくても、鈴木秀子さんの本は、 ぜひ、手にとって見てくださいね。 とてもいい本が多いので。
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