まゆのウォーキング、ぼちぼち日記

2008年08月10日(日) 愛された思い出…「生まれてからずうーっと不幸」

今日は、締め切り仕事があったので、
UPが遅れてしまいました。
仕事が終わったので、すっきりとしました。
ああ、よかったぁ…

今日は、本からのお話です。
今日紹介する本は、私が心から尊敬し、
生き方の手本としている鈴木秀子さんの本、
「生の幸い、命の煌き」からです。






この本は、生きることと、
死を新しい視点でみつめた本です。
死は、恐れるものでも、忌み嫌うものでもなく、
また、生と死は切り離されたものでもなく、
生の延長線上にあり、それゆえに、死の意味は、
生を際立たせてくれるものだと言っています。



一つ一つのお話に、人間としての生き方、
死の受け入れ方、生きることの意味などが
書かれており、静かに心に響いてきます。
ぜひ、読むことをおすすめしたい本です。

私は、この本を読んで、
今の自分の姿勢を見直しました。
そして、人間としてやさしくありたいと、
心から思いました。
(なかなか思ったようにはいかないのですが…)




さて、今日の話は、この本の中から、
「愛された思い出」
というお話の紹介です。
(1部略し、強調はこちらでしました。
 P16〜25からの引用)




「愛された思い出」 


少年院でカウンセラーをしている若い友人から、
年の瀬も迫った早朝、電話がかかってきたことがあります。
彼女は、「お姉さん」と皆から親しまれて、
問題をかかえる少年、少女のよき相談相手となっています。
その彼女の電話の声は、いつもの明るさに似合わず、
おどおどしていて、困り切っている様子でした。

彼女と話し合った結果、私は、さまざまな非行のあげく、
少年院に送られてきた一人の中学生の男の子に、
寒い暮れの夕方、出会うことになりました。


無表情の、背だけ伸び切ったという感じのこの少年は、
痩せた肩を怒らせ、足を引きずりながら、
揺れる舟のように歩くのでした。
椅子に座る時も、はすかいにどすんと大仰な音を立て、
左足を右膝にのせて、相手の目の前に、
汚れた大きな靴底がいくようにするのです。
少年は時々、上目遣いに回りを見渡しては私を無視し、
ふてくされた態度をとり続け、口を開きません。




「誰の手にも
 負えそうにありません」




と、消え入るようにつぶやいた若いカウンセラーの
電話の声がもっともとうなずかれます。
黙って彼の前に座っていた私は、ふと口にしました。
自然に話したくなったのです。


「夏樹君でしょ。
 私、夏樹って名前って好きだなぁ。
 夏の緑の木々の枝を渡る、
 さわやかな風を感じるもの」



彼は、顔を横にそむけたまま、貧乏揺すりをしています。
彼の全身から、灰燼が吹き上がるようです。


「何も話したくなかったら、
 無理に話さなくてもいいのよ。
 黙ってていいから、
 私といっしょにしばらくここにいてね」



彼は、ちらっと私を横目で見て、またすぐ目をそらせました。
そのまま貧乏ゆすりを続けています。

私は沈黙し、気づかれないように彼の動作を読み取り、
彼の動きに合わせて体を動かすことにしました。
彼が息を吐くときにゆっくりと一緒に吐き、
彼が足を組み替えれば、私も腕を組み替えると
いった調子です。
これは心を閉ざしている人と交流を持つための
ゆとりを与える助けになる方法です。



しばらくたって突然夏樹君が、
組んでいた足をほどき、
両足を床にきちんと揃えて座り直しました。
しかし上体は斜めにかしいだままです。
伏せていた目を細く開き、
まだ子どもっぽさを残している口元を
きゅっと結び直して、老人のような声で、
初めてこういいました。




「俺ってさぁ、
 生まれてからずうーっと
 不幸なんだ」
「えっ、不幸?
 ずっーと不幸?」




私は、彼が不幸などという抽象的な言葉を使って
話し始めたので驚いてしまったのです。

彼は、いったん口を開くと、胸にたまっていたものが
どんどん勝手に飛び出してくるので、
自分でとまどっている様子です。

大人ぶった口調や、時には幼児の甘えた
舌足らずの話し方で、夏樹君が独り言のように
いったことはひとつのことに集約されます。
それは、彼の最初の一句にこめられた思いです。



「おれほど不幸なやつはいない。
 誰からも大事されたこともないし、
 みんなおれをやっかい扱いにする。
 だから、仕返ししているんだ」




こんな思いで生きている少年の生い立ちは、
もちろん恵まれたものではありません。
彼の話をまとめると次のようになります。


彼は生後すぐ相次いで両親を亡くし、
育ててくれた祖父母も亡くなったと後は、
親類の家をたらい回しにされました。

最初に預けられたおじの家では、
少年は仕事の手伝いばかりさせられ、こき使われました。
あまり学校に行くこともできない彼は、
「登校拒否」のレッテルを貼られてしまったのです。
10歳のとき、耐えられなくなって逃げ出します。
しかし、すぐに連れ戻されて、
次に預けられた別のおじの家では、家族が意地悪くて、
なにかと少年を虐待します。
そこを逃げ出すのですが、また、
別の家でひどい目にあうことになります。

少年は自分のこれまでの人生が
いかにひどいものだったか繰り返していました。
事実がどうであったにしろ、
今の夏樹君はそう感じ取っているようでした。


しばらく沈黙が流れました。
思い切って話したあとの夏樹君の顔に、
少年らしい表情が漂い始めています。
しかし、目は暗く、ときどき前後に揺れる体は、
背骨のない軟体動物の雰囲気に包まれています。




この続きは、また明日書きますね。
この後に、夏樹君がどんな話をするか、
ぜひ、続きを読んでくださいね。
私はとても感動しました。





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