2007年07月25日(水) |
荷車おじさんの複雑な想いと日常 |
さて、昨日からの続きになります。
どうやら、このおじさんは、ちょっと前に、 刑務所から出てきた人なんだとわかった。
そこで、私は興味を持ち、 おじさんにこう質問した。
「あ、そっか、刑務所から出てきて、罪滅ぼしに、 老人ホームのおばさんから頼まれた車イスを もらおうと思ったの?」 「いや…そんなわけじゃないけど…」
おじさんは、ちょっと言いよどんだ。 どうやら、罪滅ぼしって感じでもないらしい。 私はもう少し、刑務所の話しが聞きたかったので、 さらにこう聞いた。
「なーんだ、違うのか… ところで、いつ頃出てきたの?」
すると、おじさん、 いきなりこんなことを 言い出した。
「ちょっと前だね…。俺さ、気が荒くてさ。 ダメなんだねぇ… あのさ、俺のさ、親戚ね、○○県の警視庁の 偉い人なの、信じられないかも知れないけど。 すごく活躍しているんだよ。 俺とは雲泥の差だよね… 俺のことばれたら、カッコ悪いよね。 親戚に刑務所に入った者がいるなんてさ。 ちょっと悪いなと思っているわけよ」
私は、話しが唐突だったので、驚いたが、 おじさんが、アルミ缶ふたを集めているのは、 親戚の偉い人が、何かどこかで、 おじさんに影響を与えているのかもしれない、 などと思ったのだった。
どうやら、おじさんには、おじさんの 刑務所に入ったことに対しての思いがあるようだった。 私は、これ以上刑務所の話しを聞き出すのをやめた。
おじさんは、この話しが終わると、 今度は、こんなものを見せてくれた。 これだ。
どうやら、おじさんが育てているらしい。 そして、こう言った。
「これね、食べるの。ちょっと苦いけどね。 まぁ、食べられるよ。 でも、食べることより、なんかちょっと 植物があるといいね、ほら、ここに置いてるんだ。 毎日索漠としているからね。」
こう言って、荷車上に置いて見せてくれた。 道ばたによく植わっているこの植物が、 食べられることを、私は初めて知った。
また、こんなモノも見せてくれた。
海のイラストのジグソーパズルだ。 まだ、新しいものだった。 おじさんは、こう言った。
「これ、もらってさ。新品なの。 こんなの捨てちゃうんだね、簡単に。 あんた、持っていくかい?」 「ありがとう、でも、いらないわ。 私はジグソーパズルは、どうも苦手なのよ。 おじさんやらないの?」 「こんな面倒なもん、やってられないよ。 それに、これは、難しいらしいぜ」 「でも、せっかくあるから、やってみれば?」 「いいよ、俺、せっかちだからよ」
おじさんは、そう言って笑った。 私は、けっこう長居をしてしまったので、 おじさんに、 「今日は話しを聞かせてもらって、 どうもありがとうございます。またね」
とお礼を言うと、おじさんは、
「おお、また見かけたら、話しかけてくれや。 もっともこのあたりも今はうるさくて、 どこにいるか、わからないけれどね」
と言った。 どうやら、このおじさんの荷物は、 この荷車と、この写真の荷物一式だけらしかった。 この2つの荷物をつないで、あちこちに 行っているらしい。
私は、うんと頷いて、
「おじさん、元気で、またね」
と、挨拶をしておじさんにさよならした。
私は、このおじさんが、元気で、 アルミ缶のふたを集めてくれることを 心から祈ったのでした。
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