言の葉孝

2013年01月01日(火) ヨイトマケの唄

 身振り手振りを加えた謡いぶりはまるで舞台上の演技といったほうがしっくりと来る。昨年末の紅白歌合戦にてシャンソン歌手の三輪明宏氏が披露した「ヨイトマケの唄」である。
 リズムを時々外しながら、ゲンコツを振りかざし、汗をふき、綱をひく、表情も声と顔をゆがませて歌う、曲と歌だけでは表現しきれない、今時の歌曲とは一線を画している歌だと、筆者は感じている。様々な人々がこの歌を感情たっぷりに歌っているが、スマートに歌おうとすればするほど、この曲に込められた想いが失われるのが分かる。

 この曲は、三輪氏が炭坑町の劇場で歌うことになった際、この炭坑で働く労働者のために歌う曲を持っていないことから作曲された歌だ。故に他の歌ではきらびやかな女装で歌うところを、この曲を歌うときだけはシックな黒い男装で歌っている。土木作業員だった母に育てられ、エンジニアになった主人公になりきるためだ。
 歌の終盤で、どんな歌より母ちゃんの声と唄が世界一だ、と歌う三輪氏の声と表情は、それまで苦渋に満ちていたものが、どこまでも慈愛に満ちたものと変わっていた。その心は土木作業員だった母だけではない、今を懸命に生きる全ての人々に向けられている。

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