2005年08月23日(火) |
4『線路上の暴走』その2の日 |
「乗客の皆さん、静粛に! 今から私の言うことをよく聞いて下さい!」と、ジェシカの声が客室に響いた。カンファータ魔導騎士団の副団長として号令に慣らしただけあって、その声はよく通り、客室で談話に興じていた客達は揃って彼女に視線を向けた。 「不測の事態が発生しました! この車両は危険ですので、どうかできるだけ後方の車両に移動して下さい!」 彼女の指示に、乗客達がざわめく。
「不測の事態ってどういうことだ?」「何故、乗務員が出て来ないんだ!?」「後方の車両に移動するだけで助かるのか!?」「どうせ、何かのアトラクションじゃないのかぁ?」「美人のねーちゃんだしなぁ」
どうやら、指示を出したジェシカが乗務員ではないことが信用に欠けるらしく、乗客達は疑問を口にするだけで、動こうとしない。 「くっ……」と、彼女は密かに歯噛みした。この後に方が大変な行動が待っているのにこんなところでつまずくとは。
その時、後ろでカッと、何かが光ったかと思うと、小さな爆発音がした。 「オラァッ、命ァ惜しかったら早よ行かんかい、ボケェッ!」 後ろを振り向くと、カーエスが光弾を掌に発言させて振り回していた。いつもの眼鏡は黒色眼鏡に変えている。はっきり言って似合っていないが。運転室の爆発跡から煤を失敬したのか顔中を真っ黒にしており、一見すれば山賊に見えなくもなかった。 「………カーエス?」 いつもは柔らかい、というかふやけている西方訛りが異様に迫力を帯びており、乗客達からはざわめきが静まり、動きが凍り付いた。 「それとも今いてこましたろか、アァ!?」 その凍結を砕くように、カーエスがもう二、三発光弾を天上に向かって打った。その怒声に押されるように、乗客達は蜘蛛の子を散らすように後ろの車両へと殺到する。 「……何をやっとるんだ、貴様は……」 呆気にとられた表情でジェシカが呟くと、カーエスは密かに色眼鏡を上にずらし、いたずらっぽい笑顔を見せた。 「いやぁ、『無力な者を御するには脅すが一番』ってホンマやな」 「だからってノリ過ぎだろ、お前」 苦笑しながらリクが乗客を追って客車の後方へと駆け出す。 「お陰で結構スムーズに乗客を移動できそうスけどね」と、コーダが一応誰も隠れていないか車内を《熱源探知》で確認する。どうやら、今のカーエスの脅しでだれも隠れるという発想は湧かなかったらしい。
「盗賊だ!」「山賊だ!」「列車強盗だ!」「早く逃げるのよ! もうすぐこっちにやってくるわ!」「どこに逃げるんだよ、走ってる列車だぞ!?」「車掌はどこ!?」「だれかこの列車を止めろぉ!」
「……これのどこがスムーズにいきそうなのだ。不必要に話が拡大しているではないか」 次の車両に移動した時目にした、混乱を絵に書いて立派な額縁に収めたような光景に、ジェシカが思わず眉をしかめて漏らした。 目の前では怒号が飛び交い、バタバタと人間が走り回っている。荷物をまとめて右往左往している者もいれば、少しでも脅威から離れるために車両後方で詰めている者達もおり、この様子ではかなり遅れそうだ。 「落ち着いて下さい! あまり急がないで! 荷物は必要最低限に留めて下さい!」 ジェシカの張り上げた声に、乗客達はリク達がこの車両にやってきたことに気付き、一層騒ぎ始めた。
「うわあぁっ! アイツらだ!」「盗賊だ!」「山賊だ!」「列車強盗だ!」「あの黒眼鏡は魔法を使うぞ!」「早く行ってよ! 後ろが詰まってンのよ!?」
「違います! とにかく落ち着いて話を……!」
「後ろの黒眼鏡が鉄砲玉ってやつか!」「で、へらっとしたのはきっと暗殺者だな!? あの笑顔のまま人を殺すんだ」「ひぃいぃ、助けてェェ!?」
「だから信じて下さい! 我々は盗賊などではありません!」
「ああ言っとるがあの女騎士がおそらく首領じゃないか」「確かに風格あるしなぁ」「あのきれーな顔で何人ものオトコを騙してきたのね!」
「だ、誰が首領だ!? 無駄口叩かず、私の言うことを聞かんかぁっ!」 首領呼ばわりされたジェシカは槍を振り回して声を張り上げた。その際、槍は椅子に叩き付けられ、魔力が込めてあったのか、その椅子を粉々に吹き飛ばす。 その威力をみた乗客達は顔を青くし、身を縮こませた。 「気を付けっ! 整列っ!」と、続けてジェシカが号令をかけると、動きが恐怖でぎくしゃくしながらも乗客達は言う通りに通路に並ぶ。 「よし、やや早足で行進開始ッ!」 彼女の号令に、返事をする者はいなかったが、全員が揃ってぞろぞろと車両後方に歩いていく。先ほどの混乱振りはすっかりなくなり、移動は見るからにスムーズになった。この分では先ほどまでの遅れをしっかりと取り戻せそうだ。 「言っておくが、後ろの車両に行っても余計なことは言わないように。後ろの者にも私からきちんと指示を出す! 従わなければ車両から放り出してやるからな」 最後の付け足しに、乗客達はびくりと身体を震わせ、理解したことを示した。 「……結局自分かて脅してるんやん」 自分の出番を奪われたのが残念だったらしく、不満そうに口を尖らせたカーエスに、ジェシカはしれっと答えた。 「失礼な。私は脅してなどいない。威圧したのだ」
Upしようと思ってて忘れてた−! まさに今から出版会の合宿いってきます! web拍手レスしてる暇もないので、帰ってきてからって事にしておいて下さい。
ちなみに、俺、九州の温泉としか行き先知りませんー!
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