読書記録

2024年04月07日(日) ゆれる階 / 村松 友視


 父の顔を知らず、母も死んでいるときかされてて、戸籍上は祖父(作家の村松梢風)の末子として祖母に育てられた。
祖父は正妻である祖母ではなく、別の女性と生活していて、大学入学まで祖母との二人暮らしだった。
とは言っても鎌倉に住む祖父の家にも夏休みとかに小学4年くらいから出入りしていた。
祖母との二人暮らしが両親の揃った家とは違うことは理解していたが、特に父や母を恋しがることもなかった。


中学3年生のとき祖母から伝えられた実母の存在についての告知を、真正面で受け止めきれぬ私は、もともと身についていた内向的性向に加えて、失語症的な状態におちいったまま、高校生活をおくることになった。高校入試から大学卒業直後くらいまで、大袈裟にとらえれば自分にとって同じ源に発する鬱の季節がつづいていたような気がする。


梢風という存在は、私にとって自分に近づいては離れ、とらえようとすれば先へ遠ざかって彼方でゆれている蜃気楼の域を出ぬままだった。あえてそのゆれるけしきにすがりつき、強く絆を求めようとすることもないまま時がすぎていったあげく、ある日突然、蜃気楼が唐突に私の視界から消えてしまった・・・梢風の死はそんな感じだったのだ。











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