2017年11月30日(木) |
土の中の子供 / 中村 文則 |
芥川賞を受けた表題と短編一つ。
物語は、タクシー運転手をしている27歳の青年の一人称(私)による語りで、最後まで名前は明かされなかった。 幼いころ両親に捨てられた彼は、預けられた先で激しい暴力を伴う虐待を受け続けた挙げ句に山中に埋められたが、 自力生還して後、施設で育った。 だが産みの親たちからどんな暴力を受けていたかは語られていないため、想像するしかない。。
その後生き延びるも、ある種の自虐的なトラウマで彼は暴力にその身を晒し続ける。 そして暴力を受けることによって生じた恐怖を意識の中で捉え続けようとする。
物語はバイクに跨った連中にタバコの吸い殻を投げつけて半殺しの目に合う。 終盤ではタクシー強盗に遭い首を絞められ死を覚悟する。 彼は決して死にたいというか、消えてしまいたい訳ではない。無気力で無抵抗なようだが、彼にははっきりとした意思がある。 幼い日に山中の土に埋められたとき、そしてタクシー強盗の男に首を絞められたとき、彼は抵抗し命が続くように肉体を動かす。 自分に根づいていた恐怖を克服するために、彼なりの、抵抗だったのではないだろうか。 タクシー強盗の太ももにボールペンを突き刺して抵抗し、 暴力を乗り越えた彼は、タクシーを凄まじい速度で走らせ、 急カーブの先にある白いガードレールに突っ込んでいく中で暖かな光を感じ、恐怖を克服する。
そして最後にかつて施設で世話になった恩師が父親に会うことを勧めるが、 「僕は、土の中から生まれたんですよ」と言い、 だから両親はいないのだと言い、会うことを断って街の中へと歩いて行く。
蜘蛛の声
|