読書記録

1998年06月08日(月) 針女              有吉 佐和子

女主人公の矢津清子の、数え年十八歳から二十五歳までの人生が書かれている。年齢に合わせるかのような昭和十八年から二十五年までという期間は、戦中から戦後へかけての、最も苛烈な生活が営まれ、社会生活も目を見はるような変革が行われた時期であって、小説「針女」はその歳月を背景にしている。針を持つことを職としている清子にとっては、その歳月は、日本の女性の衣生活が、革命ともいうべき変貌を遂げたときであった。すでに戦中であったから、針を持つ仕事は、今までの着物のもんぺへの縫い直しが増え、到頭、針女がミシンで軍服を縫わなければならなくなり、やがて迎えた戦後は、世の中の女性達が洋装中心の衣生活に移行していった。
清子は物語の冒頭で、足の裏に縫い針を踏んでしまう。「出針の怖さ」という言葉があるが、弘一のところに召集令状が来、それを届けに来た区役所の者の呼び立てる声に、立ち上がった清子が針を踏み、それが折れ、清子は階段をころげ落ちて、結果として不具の身となってしまう。思いがけぬ事故から不具の身となった清子だが、その性質のよさが、卑屈になったり、ひがみっぽくなることもなく、不自由にはなったが清子の忍従はそれを克服していく。ただ、弘一との、互いに抱き合っていた恋愛感情は結ばれないままに終わった。出征した帝大生の弘一が残した『青春の遺書』を胸に、針仕事に打ち込む清子だが、戦争が終わって復員した弘一の性格は一変していた。また清子は針仕事に打ち込むしかないのである。


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