ゆく水に数書くよりもはかなきは

2005年03月09日(水) 始まり・1

あのひとと出会ったのは晩秋の頃だった。



突然メールがきて、話しませんか?と誘われた。

以前付き合っていた人とひどい別れ方をしたせいか
その頃の私は人間不信で
それでも誰かを信じたいとどこかで望んでいたのだと思う。
メッセンジャーの友人は男性ばかり、
しかも簡単には会えないような遠方に住んでいる人ばかりだった。
会わないですむように予防線を張っていたのだ、要するに。

彼は群馬県在住、新幹線を使えばそれほど難しい距離ではないが
それでも簡単に会える距離だとは思えなかった。
いつもどおりに返信メールを出し、彼とのメッセンジャーでの会話が始まった。
話してみると彼は実直で、いい人という印象だった。


しかし、100キロ近くの距離を遠方ととったのは私ばかりだったようで
話が盛り上がってくると彼はさも当然のように
「それじゃ今度逢ってみようよ」
と言ってきた。

「群馬は遠いですから」
遠回しに断ったつもりだった。
すると彼は
「じゃあ車で迎えに行くよ」と言う。
「いくらなんでもそれじゃ悪いですよ」
「だって遠くて来られないんでしょう?」
「遠いのはお互い同じじゃないですか」
「でも逢いたいよ」


結局私が折れ、逢うことになってしまった。




今思えば、ドタキャンでもなんでもするべきだったのだ。

逢いに行くべきではなかったのだ。



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馬鹿正直という言葉がある。
そのときの私はまさにそれで
ドタキャンするどころか自分から逢いに行ってしまったのだ。

  だって車出させちゃ悪いし。
  だって逢いたいって言ってるんだし。

なんだかんだと言い訳してもうしろめたさが消せるわけではなく
各駅停車の電車に乗ったせいもあってか
群馬まで、酷く居心地の悪い道中だった。

約2時間後、めちゃくちゃローカルな駅に着く。
関東では結構有名な私鉄とのターミナルでもある駅なのに
えらく鄙びていて、駅前にはコンビニすらなかった。

やっぱり、帰ろう。

踵を返しかけたが、果たせなかった。

視界の隅っこに映っていた黒い車から
見ようによってはダンディと見えなくもない男の人が降りて来ていた。

私を見ながら携帯をいじっている。
ほぼ同時にバッグの中の携帯が着メロを鳴らす。

「当たり?」
白髪混じりだけれども、聞いていた45歳という年齢よりは若く見える顔が
にこりと笑いかけてくる。
帰る機会を失い、私は曖昧に笑って返事の代わりにした。
「見つけた」
穏やかな笑顔。

促されるままに車に乗った。
「逃がさないよ」
冗談とも本気ともつかないそんな発言を、どこか醒めた気持ちで聞きながら

「逢ったら、男と女の関係でいいよね?」
メッセンジャーで交わした会話にそんな言葉があったなと思い出していた。

堕落という文字が脳裏に浮かんでいた。


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白花夕顔 [MAIL]

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