Promised Land...遙

 

 

こっち向いて - 2011年11月24日(木)

「漣、今日ご飯、何食べたい?」
「……………」
「漣?どうかした?」
「……………」

今日は漣の機嫌が悪いらしい。
話し掛けても返事はなく、そっぽ向いたまま。俺を見ようともしない。
バイトから帰ってきてから様子がおかしいな、とは思っていたけど。

漣が機嫌を損ねるのは大抵俺だ。いや、不機嫌にさせるつもりはないんだけどさ。ちょっとした事で不機嫌になっちゃうんだよね、この子。
でも、俺はそんな漣を可愛いと思ってしまう。俺の言葉、行動で怒ったり笑ったり泣いたり――感情を左右させる漣が愛しくて堪らない。

ちなみに怒らせる原因の二割はちっぽけな問題だ。
漣が買ってきたプリンを俺が食べちゃったとか、漣が楽しみにしてたドラマをビデオ録画し忘れたとか、『今度の休み、遊びに行こうな』って言ってたのにそれが駄目になったとか。
その殆どが下らないものばかりで、漣の機嫌を直すのは割と簡単。
残りの八割は嫉妬。こっちだったら、ちょっと厄介だ。

様子を見る為に少し漣から離れようかな。
とりあえずお茶でも入れる振りしつつ…と立ち上がろうとしたら、何かに引っ張られて動けない。
何だ?振り向いたら、漣が俺のシャツの裾を掴んでいた。
瞳をうるうるさせながら俺を見上げてくる。

さっきまで怒ってたのに。顔だって見てくれなかったのに、俺が離れるのは嫌なんだ?
あーもう何なんだ、この可愛い生き物。ちきしょう。
もっと色々意地悪して、悪戯して苛めたい――いや、そんな事考えてる場合じゃなくて。
とにかく漣の機嫌を直すのが先決。

「漣、ここおいで」

ソファに座り直してぽんぽん、と膝を叩く。
漣はきゅっと唇を結んで、またそっぽ向いた。眉間には深い皺。
だけど、俺が嫌な訳じゃない。それはさっき行動で示してくれたから確かだ。
今更意地張ったって意味ないのに。
俺が傍にいないの嫌なんでしょ。ね、漣。

腕を掴んで漣の身体を引き寄せる。大した抵抗もなく、漣は俺の方に倒れ込んできて少し不安そうな顔をして俺を見上げてた。
大丈夫だよ、という意味を込めてほっぺたにキスしようとしたら、また顔を逸らされる。思わず苦笑い。
漣の腰を持ち上げて、膝の上に乗っける。
腹を割って話し合い、には向かい合うのが一番だ。膝の上なのは…まあ、俺の趣味だ。
さあ、不機嫌の理由を聞こうか。

「漣くーん、どうして怒ってるんですか?」
「ガキ扱いすんじゃねーよ!」

漣はそう叫ぶと、俺を睨み付けるように見た。
いきなり怒鳴らるとは思わなくて、俺は何も言えなくなる。
黙ったまま漣を見つめていると、漣はぽろぽろと涙を零し始めた。
どうしたの?何かあった?何で泣くの――そう尋ねたいのを今は我慢する。また漣を怒らせるかもしれないから。
怒るのは良い。宥めれば良いだから。だけど、漣は怒ると暴れるし、泣くし…。
漣に泣かれるのは困る。胸が痛いから。
もう泣いてるけど…。ああ、困った。俺も泣きたいよ。

「修一な、んかき、らいっ!」
「俺は漣が好きだよ」
「う、そつき、修一はほん、とはおん、ながいいん、だ」
「俺は漣が良いよ。漣じゃなきゃ嫌だよ」
「うそ、だ。お、んながい、いならおんなのと、こいけよ!」
「嫌だ、漣が良い」

何度も繰り返される押し問答に、漣は次第に言葉をなくして俺にしがみついて泣いた。
俺はただ、漣の頭を優しく撫でてやるばかり。
嫌いだ何だと言いながら、俺にしがみついてる漣は本当に可愛い。
だけど、泣かせてるのは俺なんだと思うと、やっぱり胸が痛い。
泣かないでよ、大好きだよ、俺はずっとここにいるよ?
漣が泣き止んでくれるなら、俺は何だってするよ。

「ごめんね。漣が良いのに、漣しかいらないのに悲しませてばっかりして、俺は悪い奴だね」
「…そんなんで信じないからな」
「じゃあ、どうしたら信じてくれる?」
「そんなの、自分で考えろ。信じさせてみろよ」

信じさせてみろ、だって。可愛いなー。
これってお誘いだよな?いっぱい可愛がって、って事だよな?
そういう事なら喜んで。涙も多少収まったようだし、俺は漣の身体を抱き上げた。

「じゃー、ベッド行きましょーねー」
「ふざけんな!一人で歩けるっつの!」
「だめー。俺がつれてくの」
「ガキ扱いすんじゃねーっつっただろ!」

馬鹿だなぁ、漣は。これはガキ扱いじゃないよ。
漣が可愛いから、愛しいから、可愛がってあげたいだけだよ。

それからはまあ…、こんなとこじゃ言えないような事して、漣の機嫌を直した訳だけどさ。
俺、今だに漣がどうして怒ってたのか分かんないんだけど。
漣は俺に背を向けて、眠った振り。怒ってるんじゃなくて照れてるんだ。

「漣くーん?もう寝ちゃった?」
「……………」
「漣くん、どうして怒ってたの?」

漣は馬鹿で素直で演技が出来ないから、寝た振りなんか出来ない。
名前を呼んだら、しっかり肩を揺らした。答えたって訳じゃないだろうけど。
怒りをぶり返す事になるかな、って思いながら尋ねると、漣の小さな声が返ってきた。

「…お前、さっき女と歩いてただろ」
「え?ああ…うん、歩いてたね、それが?」
「それが、じゃねーよ。でれっでれ笑いながら歩いてた。ああいう年上の女が良いなら、そっちいけば?」

……………。
仰ってる意味がよく分からないのですが?

確かに俺は女性と歩いてたよ。会社の先輩の女性と。それは間違いない。
だけどあの人、四十過ぎたおばちゃんですよ?俺と二十くらい歳が離れてますよ?
確かに年上には違いないけど…、年上過ぎるだろ?
姉弟…でもきつい、下手すりゃ親子だ。
どう考えたら、あのおばちゃんと俺がどうこうなるって思えるんだ!?

…でも。
あんなおばちゃん相手でもやきもち妬いちゃうんだ?
おばちゃんで駄目なら、お婆ちゃんでも子供でもやきもち妬くじゃん、お前。
可愛いなぁ。俺、超愛を感じたんですけど。

「漣、こっち向いて?」
「…やだ」
「こっち向いてくれないと、キスが出来ない」
「……………」

それでも、漣はこっち向いてくれなくて。
じゃあ、良いよ。見えてる所にキスするから。
背中や首筋に何度もキスしてたら、漣が肩を震わせて小さく声を上げた。
あんまり可愛いから、ここじゃ言えないような事も第二ラウンド突入です。

「漣、好きだよ、大好き」
「…俺はお前なんか嫌い」

良いよ、答えてくれなくたって。
お前が俺を愛してる事なんて、全部お見通しだからさ。


END


-




My追加

 

 

 

 

INDEX
past  will

Mail