マフラー (3) - 2008年01月26日(土) 一目一目想いを込めながら―――なんて言ったら乙女チックだけど。どんな風に告白しようかなって思いながら編んでいた。 先輩、好きです。先輩はいっつも優しくて頼りないって思っていたけれど、先輩に怒られた時から凄く意識するようになって…、これじゃ私、変態みたい? 先輩に怒られて、目が覚めたんです。ファーストに上がれたのは先輩のおかげです…、うーん、告白っぽくないかも? 色々言葉が浮かんでは消えていく。マフラーは思っていたよりもずっと早く編み上がった。 だけど、渡せなくなってしまった。先輩に彼女がいるって事、知ってしまったから。 「先輩、違う中学に彼女いるんだって。高校は同じ所に進むらしいよ?」 部活の同じパートの子に、そう聞かされたのはクリスマスの三日前。マフラーも編み上がって、告白する準備はばっちりだったのに…。 ショックで悲しくて、私はこのマフラーをタオル代わりにして泣いた。 泣いたり怒ったり、暫くの間喚いた後、落ち着いた私はこのマフラーを収納ボックスの底に仕舞ったんだ。 渡す事は出来ない、だけど捨てる事も出来なかった。それは先輩へ想いを捨てる事だから。 ―――なのに、こんなに綺麗さっぱり忘れてるとは。 私って薄情な女…。思わず苦笑いが零れる。 大切だった想い、涙、捨てる事が出来なかったマフラー。あの時は必死だった自分が二年の間に思い出になって、綺麗さっぱり消えてなくなってしまった。 それは大切なものが増えてきた証拠だし、自分が変わった証拠。悲しい事じゃなくて、嬉しい事だ。 私は生きている。だから、過去よりも現在を大切にしなくちゃならない。 今だったら捨てられる、このマフラー。私に迷いはない。 先輩、今も元気にしてるかな?彼女と仲良くやってるかな? 何をしてても良い、今も幸せでありますように―――そう心の中で祈りながら、私はグレイのマフラーをゴミ箱に捨てた。 妙にすっきりにした気分になって、私は部屋の窓から空を眺めた。 空は快晴。どこまでも続く青空を見つめ、私は恋人の貴志に会いたくなって、携帯電話を手に取る。 『会いたい』なんて直接言うのは恥ずかしくて、私はその想いを文字にしてメールを打った。 その返事が返ってきたのは五分後の事。 ***** 某所から持ってきた小説もいよいよこれで最後。 これは夏に書いたお話でした。お題が『マフラー』で、「夏にマフラーってどうすりゃ良いんだ;」と嘆いたもんです。 敢えて季節外れのお話は書かず、『夏+マフラー=思い出』という法則で書いた記憶があります。 内容はともかく、その発想はよく覚えてます。 -
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