マフラー (1) - 2008年01月24日(木) 悲しいだけの綺麗な思い出なんて、忘れてしまうものなのかな。 このマフラーに込められた想いはそんな簡単なものじゃなかったのに。 少なくとも、あの頃は。 そのグレイのマフラーを見つけたのは、クローゼットの収納ボックスの底。 「あれ?」 夏物の衣類に埋もれるようにして仕舞われたそれは、私には見覚えのない物だった。 何だろう、これは?私が買った物?誰かに貰った物? それにしては色が変だ。私、グレイって好きじゃないし…。どうせ買うなら黒か、白を買いそうな気がするけど。 誰かにプレゼントして貰ったなら、忘れているなんて失礼極まりない事だし。 とにかく、何で思い出せないんだろう? 私はそのマフラー片手に、部屋を出た。向かったのは隣の部屋のお姉ちゃんの部屋。 もしかしたらお姉ちゃんの荷物が紛れ込んだのかも…。そんな考えを胸に、私はお姉ちゃんの部屋のドアを開いた。 「お姉ちゃん、あのね」 「ノックぐらいしてよ。着替えてたらどうすんの」 「なーに言ってんの、今更!私とお姉ちゃんの仲じゃん!」 「あのねー、『親しき仲にも礼儀あり』って言うでしょー?」 お姉ちゃんはこういうとこ、煩いんだよねー。なんか考え方が古臭いというか…。 ま、でもこの場合は私が悪いんだけど。 「そんな事よりさ、このマフラー知らない?私、見覚えがないんだよね」 お姉ちゃんは私が差し出したグレイのマフラーを手に取り、怪訝そうな顔をしながら暫く眺めていた。 「知らないけど…。ていうかこれ、あんたが編んだんじゃないの?」 手編みじゃん、という言葉と共にマフラーを返される。 確かに手編みっぽい気がする。少し下手クソな編み目、毛糸が解れている所もある。 「あんたが彼氏に編んであげたんじゃないの?ほら、何て言ったっけ?あんたの彼氏」 「貴志にはそんな事してないよ。付き合い始めたの今年の春からだし………あーっ!!」 「何?思い出したの?」 「うん!ありがとう、お姉ちゃん!」 誰に編んだのよ、と尋ねるお姉ちゃんを無視して、私は自分の部屋に戻った。 思い出した、下手クソな編み目のグレイのマフラー。 お姉ちゃんの言う通り、私が編んであげた物だった。 二年前のクリスマス、大好きだった人に――― -
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