DNA (4) - 2008年01月23日(水) 「唯さんが止めろって言うから、黒染めは止めます。だから今度唯さんの髪、触らせて下さいね」 耳元で囁くように言われ、唯はとくんとくん、と心臓を高鳴らせる。 「せ、セクハラよっ」 「セクハラは唯さんでしょ。先にやったの、唯さんなんですから」 それは確かにそうなのだが…。言い負かされて、唯は悔しさに唇を噛んだ。 この男には勝てそうにない、初めてそう感じた。 「じゃあ、仕事行って来ます。唯さん、また今度」 「…いってらっしゃい」 いつのまにか休憩時間が終わってしまったらしい智樹は、唯にそう告げ休憩室を後にする。 唯はそんな智樹を送り出したものの、『また今度』の方には返事をしなかった。 「…ちきしょう」 休憩室に残った唯は、一人そう呟いた。 心臓が煩いほどに早く大きく鳴り続けている。唯はそんな左胸に掌を置いた。 智樹に気付かれてしまった、自分が智樹に好意を抱いている事を。…言うつもりなんてなかったのに。 もしかしたら、知られたくはなかったのかもしれない。いつまでも智樹に空想のような想いを抱いていたかっただけなかもしれない。 しかし、智樹は『王子様』ではなく、一歳年下の男の子なのだ。 「………触らせてあげようかな」 ほんの少し素直になるだけで、幸せは案外簡単に手に入るのかもしれない―――そう思いながら、唯は毎日手入れを欠かさない、自慢の黒髪を一束だけ摘み上げた。 憧れに似た想いが、恋愛になる日はそう遠くない。 ―――その頃、智樹が浮かれに浮かれて、料理の乗った皿を三枚落としたのは、また別のお話。 ***** …最近、すっげぇ真面目に小説書いてる気がするけど、書いたのはだいぶ前です。 このお話は結構実話で、バイト先に茶髪で地毛の男の子がいるんですよ。おじいさんからの遺伝だそうで。 そこ実話じゃないよーと前の後書きには書いてましたが、男の子が彼本人にそっくり。Sっぽいところが…(笑) 私はその子の事が好きな訳ではないですけれどねー。 -
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