DNA (3) - 2008年01月22日(火) 「初めまして、新しく入った菅原智樹です。宜しく」 そう言って差し出した彼の白い手は指は長く細く、とても綺麗な形をしていた。 髪、笑顔、指先―――彼を取り巻く全てが綺麗に思え、唯は『王子様が現れた』と内心興奮を覚えながら、智樹の手を自分の手と重ね合わせた。 『王子様』はさすがに空想が過ぎる、と唯自身思うのだが。 とにかく一目惚れに近い形で、唯は智樹に想いを抱くようになった。智樹が唯より一つ年下である、と同僚に聞かされたのだが、あまり気にはならなかった。智樹はずっと唯に対し敬語を使い、少しだけ年齢の壁を感じたけれど。 年齢なんて関係ない、たったの一歳差なんだから―――そう自分に言い聞かせている割に、唯はあまり行動を起こしていない。 積極的にアピールするどころか、特別に仲が良い訳でもない。『ただの同僚』の関係を続けてもうすぐ一年が過ぎようとしていた。 智樹にとって自分は『ただの同僚』なのだろうけれど、智樹の髪がきっかけで想いを抱いている唯としては、その髪の色を変えられるはどうしても嫌だった。 何より、もう二度と智樹の髪が太陽の光に輝くのが見られなくなる、と思うと言わずにはいられなかったのだ。 「智君はそのままでいーのっ!その方が格好良いから―――」 言ってしまってから、唯ははっと口元を手で押さえた。熱くなった頬が更に熱くなっていく。 唯の言葉に智樹は再び驚いたように目を見開き、それからにっこりと微笑んだ。 その笑みが何を意味するのか、唯には分からない。 「唯さん、こんな話知ってます?」 「………え?」 「異性の髪に触るって行為は、意外にもキス以上の行為をした男女がする行為なんだそうですよ」 さっき俺の髪に触りましたよね、唯さん―――そう言われても、唯には智樹が何を言っているのか、咄嗟に判断出来ない。 キス以上の行為、それは…。 「なっ、何言ってんの!?」 「あはは、唯さん、さっきから顔赤いですよ。酔ってます?」 「んな訳ないでしょ!?今まで仕事して来たんだからっ!」 「ですよねー。…って事は俺、期待して良いって事ですかね?」 「知らないっ、からかわないで!」 唯が怒ったように顔を逸らしても、智樹は嬉しそうににこにこと微笑んでいる。 唯には智樹が何を考えているのか、全く分からなかった。本当にからかっているのか、それとも…本気なのか。 -
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