Promised Land...遙

 

 

DNA (2) - 2008年01月21日(月)

「良いなぁ、生まれつき茶髪なんて…。染める手間もいらないし羨ましいな」
確かに唯にも両親から受け継いだ遺伝はある。乾燥肌は母親譲りだし、背の高さは父親譲りだ。
しかし、それらは唯にとってはあまり嬉しくない遺伝である。
その所為もあって智樹のような遺伝は、唯にとって羨ましい以外の何物でもなかった。

「いや、これはこれで大変なんですって。『地毛です』って言っても絶対信じてもらえませんしね。俺中学ん時、『染めてない証書』書かされましたもん。親のサイン貰ったりして」
智樹が前髪の辺りを指で弄りながら告げる。唯にとって羨ましい遺伝も、本人からしてみればやはり大変なようだ。苦労や苦痛は体感した者にしか分からないんだな、と唯は羨ましいと言った自分を恥じた。

「ここに入る時も店長に言われましたしね、一応分かってもらえたみたいですけど。いっその事、黒染めしちゃおーかと思ってるんですけどね」
「だ、ダメ!」
智樹の声に、唯は思わず声を荒げた。その声に智樹は驚いたように目を見開いて、唯を見つめる。
しっかりと視線が重なり、唯は頬が熱くなるのを感じた。

「…どうして?」
「ど、どうしてって…。だって、折角茶色なのにわざわざ染める必要ないでしょ。地毛なんだから堂々と地毛で通せば良いわよ」
「んー…、唯さんからしてみれば茶髪が良いんでしょうけど、俺はあんまり好きでもないんでー…。黒染めしたって良いと思いません?」
「ダメだってばっ。智君はこっちの方が似合ってるから、このままで良いのっ!」
唯は必死だった。思いつく限り言葉で、智樹を止めた。
唯がこんなにも必死になっているのには理由がある。何故なら、唯はこの髪から彼に憧れに近い想いを抱くようになったからだ。


それは約一年前、場所は今と同じく休憩室で唯は智樹に出会った。
唯がその日、出勤してきたのは午後。おはよう御座います、と言いながら唯が休憩室を訪れると、そこに智樹が居たのだ。今と同じ椅子に座り、窓から差し込む太陽を浴びながら。
元々明るい智樹の髪が日光にキラキラと光り、まるで金色をしているかのように唯には見えた―――外国人かと驚いて、暫くの間声を掛けられなかったのを覚えている。
先に声を掛けたのは智樹の方だった。顔を上げ、唯の方に視線を向けた智樹はにっこり微笑む。



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