DNA (1) - 2008年01月20日(日) 彼の髪が太陽の光で、キラキラと輝くのが好きだ―――最初はただそれだけだった。 始まりなんて、そんな簡単なもの。 「智君の髪って茶色いね」 唯はそんな言葉と共に、そっと智樹の髪に触れた。 「うわっ」 智樹は驚いたようで叫ぶような声を上げ、身体をびくりと震わせた後、唯に振り返る。 智樹が驚くのも無理はない。確かに突然の行為だった、と唯自身も思う。 唯のバイト先であるファミリーレストランの従業員用の休憩室。今日の仕事を終えた唯と休憩中である智樹はそこで鉢合わせした―――バイトをしていればよくある、何の変哲もない光景である。 お互いにお疲れ様、と言葉を交わした後、智樹は先ほどまで見入っていた携帯の画面に再び視線を落とす。 唯は智樹の座る椅子の後ろにある棚に向かった。自分の鞄を取る為に。 その時にふと視界に飛び込んできた智樹の髪―――それをほんの数秒見つめ、唯は智樹の髪に触れたのだ。 「すげぇびっくりしました。驚かせないで下さいよー」 「ごめんごめん、でもホントに茶色くない?」 まじまじと見つめながら、唯は智樹の髪を一束だけ人差し指に乗せる。 智樹は何だかんだと言いながら、唯のするがままになっている。嫌がる素振りも見せていない。 智樹の赤茶色の髪の毛は見た目通り、柔らかな感触だった。『猫っ毛』という言葉がよく似合う。ところどころ毛先が少しだけ跳ねているのが、唯には可愛らしく見えた。 「ああ…、よく言われるんですけど地毛なんですよね」 「地毛なの!?もしかしてハーフだったり?」 智樹の言葉に、唯は驚きのあまり少し高くなった声を上げる。 智樹の髪は本当に染めたような赤茶色で、日本人にしては珍しい髪の色だ。 だが、確かに地毛だと言われても不自然ではない気がした。智樹の髪には黒い部分がまるでない。 染めているとすれば、生え際が黒くなっていてもおかしくはないのに。しかし、智樹はいつでもどこを見ても、染めたばかりのような赤茶色の髪をしているのだ。 肌の色も白い。唯は自分の腕と智樹の腕を見比べて、小さく溜息を吐いた―――自分よりも白いのだ。 「それもよく言われるんですけど違います。遺伝なんですよ、俺のじいちゃんが凄い茶髪で」 「遺伝〜!?」 まあ、俺のじいちゃんがハーフかどうかは分かんないですけどね、と智樹は付け足して優しく微笑んだ。 -
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