リセット (2) - 2008年01月16日(水) 「お母さん、どうして僕やお母さんが暮らすこの世界は、ゲームみたいにリセット出来ないのかなぁ?」 子供の純粋で無邪気な問いかけに、母は馬鹿にする事も無視する事もなく、優しく太一に微笑みかける。 「それはね、ゲームみたいにリセット出来たら、きっと太一もお母さんも成長出来ないからよ。小さくて弱い人間になってしまうから」 「どうして?リセットして昨日のテストの時まで戻れたら、良い点取れるのに」 そうしたらお母さん、喜んでくれるでしょ?そう尋ねると、母は微笑んだまま首を横に振る。 「そんな方法で良い点取っても、お母さんは嬉しくないわよ。それは太一の力で取れたものじゃないから。それだったら、今日の太一みたいに悪い点でも素直に見せてくれた方がお母さん、よっぽど嬉しい」 「でも、お母さん怒ったよ…」 「そりゃあ怒るわよ、赤点ギリギリなんて!だけどあのテストは無駄な事じゃないのよ、無かった事するなんて絶対駄目なの。今度のテストで頑張れば良い事だもの。だけど、リセットしたら『次に頑張ろう』っていう気にならないでしょう?」 母の言葉は、太一には半分くらいしか理解出来なかった。それでも、眠気を堪えながら母の言葉に耳を傾ける。 「太一、今日の良かった事も悪かった事も頑張った事も考えた事も、全部明日の自分に繋がってるの。今日は明日の自分に、明日は明後日の自分に。だから、人間は強く大きく成長していけるのよ」 その言葉をぼんやりと耳の奥に届けながら、太一は深い眠りについた。 母の言葉は、やはり今の太一にはよく理解出来なかった。それでも、太一は母の言葉を忘れる事はなかった。 今日は明日の自分に、明日は明後日の自分に―――その言葉の意味を、太一が知るのは数年後の事である。 今の太一には分かる。母の言葉の意味が、そしてこの現実はリセットなんて出来ない方が良いんだ、と。 今日は明日に繋がっている。だからこそ人間は懸命に生きていけるし、世界がこんなにも美しく見えるのだ、と気が付いたから。 数年前の母には感謝している。礼を述べる事は恥ずかしくて出来ないけれど…。 その代わり、と言わんばかりに太一は今日という日を懸命に生きるのだ。 「おはよう、母さん」 ***** またまた某所から持ってきた小説。 時々、自分でもびっくりするくらい健全だ。 -
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