リセット (1) - 2008年01月15日(火) 例えば、 赤点だった算数のテスト。 お母さんに叱られた朝寝坊。 喧嘩の原因になった何気ない一言。 大好きなあの子を泣かせてしまった意地悪。 全部全部、リセット出来たら良いのに。 ゲームみたいに、ボタン一つでやり直せたら良いのに。 桜庭太一は酷く憂鬱な面持ちで、学校から家までの道のりを歩いていた。 「どーしよう、これ…」 そう呟く太一の手には、昨日行われた算数のテストの答案用紙が握られている。 点数は三十一点―――赤点ギリギリの点数である。 太一が憂鬱な気分でいる理由はそれにあった。帰ったら、母親にこの答案用紙を見せなければならない。見せたら、怒られるのは確実である。 出来る事なら見せたくなかった。このままどこかに隠してしまおうかとも考えた。 しかし、見せない訳にはいかないのだ。母は太一の連絡帳の昨日のページに、『算数テスト』と書いてあったのを知っているから。 母はその事をしっかりと覚えていて、今朝『テスト返って来たらちゃんと見せるのよ』という言葉と共に太一を学校に送り出している。 どうすれば良いのか、まるで分からない―――というより、素直に見せて怒られるほか、太一に残された道はないのだ。 こんな時、太一はいつも思う。『ゲームみたいにリセット出来たら良いのに』と。 この世界をテストがあった昨日までリセットする。リセット出来れば、昨日のような失敗はしない。何故なら今の太一は、昨日のテストの内容を知っているからだ。 そうすればテストで良い点が取れる。母も喜んでくれるのに…。 しかし、そんな太一の願いは叶う事はない。現実はゲームのようにリセットなど出来ず、太一は帰ったら母に怒られるだろう。 太一はやけに重く感じる答案用紙に、深い溜息を吐いた。 夕方、素直に答案用紙を見せた太一は母にしっかりと怒られた。勿論酷く落ち込んだ太一だが、夕食時には怒られた事などすっかり忘れ、大好きなハンバーグを頬張っていたのだが。 その日の夜、テレビに夢中になっていつまでも布団に入ろうとしない太一を、母は無理やり布団に押し込んだ。 最初は拗ねたように文句を呟いていた太一は、母に身体を撫でられている内に段々と睡魔が襲いかかってくる。 眠る間際、太一は母に尋ねた。 -
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