18.空 (2) - 2008年01月13日(日) 「それとも用事や仕事があるんですか?」 「いや、ないですけど」 「だったら、飲みに行きませんか?勿論こちらで出しますんで。うちのリエも里村さんも是非、と言ってるものですから」 ああ、思い出した。コイツ、今日のモデルのマネージャーだ。撮影前にモデルと一緒に挨拶されたっけ。 興味ないと本当に覚えないな、俺。ある意味すげぇかも。 「はあ…、別に良いですけど」 別に用事はないし、断る理由もない。ていうか、晩飯代が浮くならこっちとしても是非、だ。 「お付き合い頂けます!?ありがとうございます!では、うちの車で…。地鶏の美味しい店があるんですよー」 「はあ、そうですか」 よく喋る男だなぁ。そういう男じゃないと、マネージャーなんて勤まんないのかね。 どうぞ、と肩を押されてついて行こうとした時、パンツの後ろポケットに入れた携帯が鳴った。 ピリリピリリ――そんなシンプルな着信音はアイツ専用の着信音だ。 普通なら、恋人とか大事なヤツには自分の好きな曲なんかを着信音にするんだろうな。俺だってアイツ以外にはそうだけど。 アイツの場合だけ逆。この音は真面目で面白くないアイツの性格に一番合ってる気がして。 だから、この音はアイツだけ。誰からなのか、携帯見なくても分かるし。 「あー…、すみません。やっぱり用事が入ったんで、また今度にして下さい」 「え!?急なお仕事ですか?」 「違いますけど…、死活問題なんで。じゃ、お疲れ様でした」 俺の言葉に、男は少し不思議そうな顔で俺を見たけれど、無視して俺は再び歩き出した。男もそれ以上追って来ないし、別にどうでも良かったんだろう。 死活問題は言い過ぎだったかなぁ。でも、本当に寂しい時しか連絡くれないアイツだから、放っておいたら死ぬかもしれないし。アイツが死んだら、俺は仕事とか生活とか出来なくなりそうだし――ほら、死活問題だ。 まあ、あの男にどう思われようがそんな事どうでも良いんだ。それより携帯。 ポケットから携帯を取り出すと、受信メールが一件。やっぱりアイツからだった。 『里村さん、お元気ですか。俺は元気です、まあまあ。 今日は学校の友達とマックで宿題をやりました。結構沢山あったけど、全部やりました。 里村さんはあんまり勉強すんなって前に言ってましたね。でも、俺にはこれしか取り柄がないから、やっぱり勉強ばっかりです。 -
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