18.空 (1) - 2008年01月12日(土) 毎日毎日、会える関係じゃないって分かってくれてるのは結構助かってるけど。 物分り良過ぎっていうか、真面目過ぎんだよね、アイツ。 たまには『会いたい』って言って俺を困らせて欲しいし、たまには『しょうがねーなぁ』なんて言いながら会いに行きたいし。 まだガキなんだし、多少の我侭くらい言ってくれた方が俺は嬉しいんだ。 だけど、アイツは絶対我侭なんか言わない。 どんなに寂しくたって、俺に言わずに我慢して我慢し続ける。 どうしても我慢出来なかった時だけ、俺にメールするんだ。 そういう時、電話は殆どない。用事がある時は大体メールより電話派みたいだけど。 文章がやたら長くて絵文字一つない、アイツの生真面目さを表したようなメール。 その文章の節々に、『寂しい』のサインが入ってる。『会いたい』のたった四文字を、長い長い文章で俺に伝えてくる。 真面目で不器用なアイツが、俺は好きで好きで堪らないんだけど。 アイツの事を思うと少し切なくて悲しくなる。 こんなに好きなのに、俺はアイツの為に全てを捨ててしまえるほどガキじゃないんだ。 「里村さん!」 聞いた事あるような、ないような声に俺は振り向いた。その先には見た事あるような、ないような顔の男が愛想笑いを浮かべて、俺の元に走ってくる。 誰だっけ?――俺は基本的に興味のあるヤツの顔しか覚えない。新米だけどカメラマンという職業上どうなんだろうな、この性格。 で、本当に誰だ、この男。今日の撮影のスタッフ?いや、今日のモデルの事務所関係の人間かも。 でもまあ、興味がない訳だから別に誰であっても良いかと思う。 「はい?」 「はい、じゃないですよー。仕事終わったら、あっという間に帰っちゃうって噂、本当なんですね」 「はあ…」 噂、ねぇ…。まあ、つまんない仕事はちゃっちゃと終わらせてさっさと帰るけどな。面白い仕事だったら、どんだけ時間かけても構わないけど。 本当はつまんない仕事なんてやりたくない。だけど、仕事を選べるほど売れっ子でもない訳で。 -
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