1.幻 (1) - 2008年01月10日(木) 毎日毎日、会える関係じゃないって分かってる。 仕方がないんだってちゃんと分かってるつもり。 電話もメールもあんまり柄じゃないし、向こうも滅多にしてこない。 面と向かったって『大好きです』なんて言えないあの人は、今は遠い空の向こう。 だから、あの人の物を見つけると、少しだけ嬉しくなる。 あの人が着てた服、あの人が付けてるのと同じアクセサリー、あの人が好きだと言ったお菓子、あの人が使ってる歯磨き粉、あの人と同じ香水。 どこにでもあるような物でも、あの人と同じっていうだけで嬉しくなる。 だけど、次の瞬間寂しくなるんだ。 あの人がここにいない今を思い知らされるようで。 「あ…」 ふとあの人と同じ香水の香りを嗅いで、俺は顔を上げた。 ファーストフード店の窓際の席、日当たりが良すぎて少し暑いその場所で、俺は向かいに座る友達と学校の宿題をしていた。 ジュースとハンバーガーを片手に、唸り声を上げていた友達が俺の声に顔を上げる。 「何?なんか分かんないとこあった?」 友達に聞かれて、俺は慌てて首を振った。 「いや、ない…けど」 「けど?何だよ。てか、お前もう終わりそーじゃんっ!俺、マジヤバいんだけどー。全っ然分かんねーしっ」 「うん…」 友達の声が聞こえてるようで聞こえてこない。でも、コイツも俺に聞かせているようで答えを求めてる訳じゃないんだ。 それより、この香水――隣に座る女の人が付けてる香水かな?あの人と同じ匂い…。 女の人が付けてるという事は、元々女性向けの香水かな…。 確かにちょっと女の人っぽい匂いだなって思ってたんだよね。さわやかな感じだけど、少し甘くて。 普段はあんまり気にしないんだけど、キスする時とか抱き締めてもらった時とか、凄く良い匂いだなぁって思うんだ。 あ、余計な事考えちゃった…かも。 考えないようにしてたのに。だって、寂しくなるじゃないか。 『会いたい』なんて言って簡単に会える人じゃないって分かってる。そんな我侭言えない自分の性格も。 だけど、会いたいって思わない訳じゃないし、会えなかったら寂しいのは当然。 好きだから…、どうしようもないくらい。だからこそ臆病にもなる。 -
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