嘘みたいな話(3) - 2007年01月06日(土) 「初めまして、榎木浩二と申します。お待たせして本当にすみませんでした。宜しくお願いします」 現れた男は思っていたよりも若くて、思っていたよりも格好良くて。 何より温かな笑顔を持つ男だった。 名前を名乗った男をぼんやりと見ていると、ママが肘で私の腕を突ついた。私にも名乗れと言いたいんだろう。 「初めまして、野村葉月です」 私はそれだけ言って、ぺこりと頭を下げる。もっと何か気の聞いた事を言えば良かっただろうか。『大して待ってないから平気です』とか…? 「葉月の母で御座います。こちらも少し遅れて、今着いたばかりですわ。ご心配なく」 にっこり微笑んだママが言ったのは嘘だ。社交辞令ってヤツ? やっぱりママ的にはこの見合い、上手くいった方が良いのかなぁ。 そんな事を思っていたら、男―――榎木さんが安心したように息を吐いて、私の前に腰を下ろしていた。 あんなにお腹が空いてたのに、運ばれてくる料理にはあんまり箸が進まない。 美味しいんだろうけれど、何だか味が分からないんだよなぁ。 榎木さんとは殆ど口聞けてないし。ママはやたらと楽しそうな話してるけど…。なんかママの見合いを見てるみたい。 私、変。この人と会ってから、絶対変。 「月並みな質問ですが葉月さん、ご趣味は何ですか?」 にこにこと笑いながら、榎木さんは聞いてきた。やっぱりそれ、聞くんだー。 「えーと…そのぅ…」 私は走ったり泳いだり、スポーツするのが好きだけど、あんまり良くないかもしんない。お転婆な子だって思われるかも。 あとは映画を見たり、友達とカラオケとか…。あんまり見合い向きじゃないなぁ。 「お、お茶を少々…」 結局、嘘吐いちゃったよー…。茶道なんて、小さい頃に一度ママに教えてもらったきり、家の茶道室にも入った事ないじゃん。 何で嘘吐いたんだろ、私…。 何となく後ろめたくて、榎木さんを上目遣いに見ると彼はやっぱりにっこりと微笑んでいた。 「素敵な趣味ですね」 そう言われて、ようやく気が付いた。 私、この人に良く思われたいんだ。お転婆だって思われたくない、ただの女子高生だって思われたくない。だから、嘘吐いちゃったんだ。 何で?私、もしかして――― NEXT -
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