嘘みたいな話(4) - 2007年01月07日(日) きっと真っ赤になっているだろう顔を隠すように、口元を手で覆いながら俯く。 「…葉月ちゃん、どうしたの?」 ママが心配そうに顔を覗き込んでくるから、私は余計に俯いてしまった。 きっと皆、変に思ってるだろうけれど顔が上げられない。 「すみません、少しの間葉月さんと二人でお話がしたいのですが、庭を散歩して来ても良いですか?」 何を言い出すんだ、この男ーっ!この状況、よく見ろって!私達、まだ殆ど話もしてないのに! 「ええ、勿論ですわ。さ、葉月ちゃん行ってらっしゃい」 何となくママの有無を言わせない口調。仲人さんもにこにこ笑ってるだけで、私の味方にはなってくれそうにない。 そして榎木さんも、 「葉月さん、行きましょう」 にっこり笑いながら、私の元に歩み寄って手を差し出した。この人もどこか有無を言わせない雰囲気を醸し出している。 「…はい」 私は小さく返事をして、彼の手を取り立ち上がる。すると、榎木さんは私の手を取ったままスタスタと歩き出して、 「それでは、暫くの間失礼致します」 丁寧お辞儀して、個室を出た。 繋いだ手は私が思うよりも強く握られて、思わずドキっとしてしまう。 榎木さんは私を連れて料亭の中庭を暫く歩いた後、建物からかなり離れた場所にある長椅子に腰を下ろした。つられて、私も腰を下ろす。 榎木さんはようやく私の手を離してくれた。温かな温もりがゆっくりと消えていって、何だか寂しい気持ちになる。 「ここなら誰も居ないよ」 相変わらず笑ったままで、榎木さんは言った。 どういう意味だ、と私は顔を上げて榎木さんを見つめる。すると、榎木さんはさらに笑みを深くした。 「ああいう堅苦しい場だと言いたい事も言えないだろ?」 あ、この人優しい。凄く優しい人なんだ。きっと私がお見合いに緊張して、ろくに喋れなくなってると思って助けてくれたんだ。 でも、喋れなかったのはお見合いの所為じゃないんだよ。もし相手が剥げたおっさんか、マザコン男だったら、遠慮なく打ち壊してやろうと思ってたんだから。 それぐらいの勇気や度胸はあるつもりだよ。それなのに現れた貴方が――― 「俺も結構こういうの苦手なんだ。だから、分かるよ」 あんまり素敵な人だったから。優しく笑いかけてくれるから、考えてた事とか言いたい事とか全部真っ白になっちゃった。こんなの私らしくないのになぁ。 NEXT -
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