嘘みたいな話(2) - 2007年01月05日(金) 「だからー!そうじゃなくって…」 「葉月ちゃん、お父様はね、葉月ちゃんが可愛くて可愛くて仕方がないのよ」 ママはいきり立つ私の言葉を遮るように言った。 確かにそれは分かるけど…、分かり過ぎるけど。だからって、見合いはないんじゃないの? だって、私まだ彼氏も作った事もないのに。好きな男の子と一緒に帰ったり、クラスの皆に内緒でデートとか…、そういう憧れのシチュエーションを一度も経験する事なく、いきなり結婚かい。文句の一つも言いたくなるっつーの。 「お見合いって言ってもね、今すぐ結婚する訳じゃないのよ?先方には葉月ちゃんはまだ高校生です、と伝えてあるの。もし葉月ちゃんが相手の方を気に入って相手の方から良いお返事が頂けた時は、葉月ちゃんが高校を卒業するまでは待って頂ける事になっているから」 …あれ?思っていたより適当だな。パパの会社の運命がかかってたりしない訳? それにママの口振りだと、私が相手の人を気に入らなかったら断っても良いよって言ってるみたい。 首を傾げながら、何となくママに目を向けると、 「だから言ったでしょう?お父様は貴方が可愛いだけ。葉月ちゃんがいずれお嫁さんになるなら、少しでも良い人の所に行かせてあげたいだけなのよ」 そう言いながら、またにっこりと笑った。 ―――そんな事があって、結局情にほだされた私は約束の日曜日、着物着て髪結い上げて、ついでに軽く化粧なんかもして料亭『雪月花』に居る。 『会ってみるだけ』という約束で見合いをする事にした私に、パパもママも大喜びだ。 する事にしたって、私にやる気がある訳じゃないんだけど。 「ママー、お腹減ったんだけど。つーか、相手の…何とかさん、まだ来ない訳?」 今日は朝から準備やら何やらで朝ご飯も食べてないし、着物は何だか息が苦しい。髪も少し引っ張られるようで頭が痛くなってくる。 「葉月ちゃん、おしとやかに。直ぐにいらっしゃるわ、もう少し我慢しましょうね」 別にお腹減ってるのぐらい我慢出来るけどさー、こんな日に遅刻するなんてきっとろくな男じゃないわね。 やっぱり剥げたおっさんか、マザコン男かなぁ…。 それからもう少し待って、約束の時間から三十分くらい経った時、 「申し訳ありませんっ、遅れました!」 個室に入ってきた見合い相手の男と、ばっちり目が合った。 NEXT -
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