君と二人なら (6) - 2006年03月07日(火) どうして良いのか、分からない―――いつもそうだった。 俺はアグリアスのことが好きだった。あの頃からもうずっと。 でも、“相手は貴族だから”ってずっと言えずにいた。一生言わないでおこうって思ってた。 諦めるんじゃない。諦められないなら、それで良い。ずっと想いを秘めたままでも、アグリアスが幸せなら良いかって思ってた。 それが間違っているとは思わない。だけど、アグリアスが俺を想ってくれて、俺の為にこんなとこまで逃げてきて…、それを突き放すのは間違っているかもしれない。 「貴族なんかに生まれなければ良かった…っ」 その言葉を聞いて、俺はアグリアスの腕を引いて抱き締めていた。 アグリアスの身体が戸惑いがちに強張ったのが分かる。 初めて抱き締めた身体は思っていたよりもずっと柔らかくて、石鹸か何かの良い匂いがした。 「…泣かないで」 そう言っても泣き止んでくれなくて、アグリアスは俺の胸に縋りつくようにして泣いた。 良かったと思った。泣いているアグリアスを見るのは嫌だけど、それでもアグリアスに“お前と出会わなければ良かった”なんて言われないで、良かったと思う。 アグリアスが、俺にとってかけがえのないあの日々を嘆いたんじゃなくて良かった。 それだけで十分だと思った。だけど、それだけじゃ駄目だ。 守るって決めたなら、最後まで守らなきゃ。 好きなら、想いを貫き通さなきゃ。 もう心に迷いはなかった。 バタン、と再び開いた扉―――振り向くと、その先にはまたあの男達が立っていた。 「やはりここに居たんだな。小僧、その女性を離せ。貴様如きが触れて良い女性ではない」 男は言う。その言い方にカッチーンと来たものの、俺はアグリアスの身体を離した。 男に従ったんじゃなくて、人前で抱き合ってんのが気恥ずかしかったから。 「アグリアス殿、探しましたよ。帰りましょう。このような小屋に居ては、ドレスが汚れてしまいます」 あーもう、いちいちムカつくんだけど。貴族ってそーゆーもんだって知ってたつもりだけど、今までアグリアスとか行方不明中のアイツとか…、貴族の中でも特異とも言える奴らと接していただけに、ムカついてしょうがない。 「嫌だ。何度も言った筈だ、貴殿と結婚するつもりはない、と」 「力ずくでも帰って貰います。父上、母上のことを考えれば、そのようなことは言えぬ筈。その小僧のことなど、私が忘れさせてみせます。さあ、アグリアス殿」 衛兵風の二人の男が剣を抜くと、アグリアスは少したじろいで唇を噛み締めた。 「そういうつもりなら…こちらも…」 アグリアスの言葉を遮るように、俺は二人の間に立つ。アグリアスを庇うようにすると男がぴくり、と片眉を上げた。 続 -
|
|