君と二人なら (5) - 2006年03月06日(月) 「………なれると思うか?」 「え?」 今度はしっかり聞き取れなくて、俺は聞き返す。 俯いていたアグリアスは顔を上げて、俺を睨みつけた。 「本当に幸せになれると思うか、と聞いたんだ!好きでもない男と結婚して、幸せになれるのか!?好きでもない男の子供を産み、その子を愛せると思うのか!?」 「姉さん、お、落ち着けって」 「こんな物…!好き好んで私が付けていると思うか!?こんなドレス…、私に似合うか似合わないか、お前なら分かるだろうが!」 「いや、似合ってるし!」 アグリアスが首飾りを引き千切ろうとする。 オイオイ、幾らすると思ってんだよ!…って、俺には分かんねぇけどさ! 「似合ったとしても、私はいらない。それがどうして分からないんだ!!」 「分かった、分かったから、落ち着けって!」 アグリアスの両手首を掴んで、その動きを止める。 首飾りは無事だった。アグリアスの胸の上でキラキラと光るそれを見つめて、俺はほっと息を吐いた。 暫くの間、俺の腕を振り払おうとしていたアグリアスは、やがて大人しくなる。 そのかわり、俯いたまま動かなくなった。 「私は…こんな物がないと幸せにはなれないのか…?私が貴族だからか…?」 「そうだよ。あんたは俺の手が届かない人なんだ。ホントは、こんな風に話してること自体おかしいんだぜ。…分かるだろ?」 「好きで貴族に生まれた訳ではない!」 アグリアスの言葉に、俺ははっと我に返った。 好きで貴族に生まれた訳ではない―――生まれる家柄を選べた訳じゃないんだ、俺もアグリアスも。 それは貴族に生まれたからこそ言える、迷い言とも取れる。裕福で権力がある貴族に生まれた方が幸福になれるのかもしれない。だけど、それは常識の範囲内での話であって。 一年前まで、俺達は家柄も身分も、金持ちも貧乏も関係なく、一緒に戦っていた。 そんなの関係なかったんだ、俺達は仲間だったから。 死なない為に必死になって生きてきたから、そんなことが気にならなかったとも言えるけど…。 だから、アグリアスが身分なんて関係ないなんて言っても、それはおかしいことでも何でもない。そして、周りの人間がそれを否定しても、俺はアグリアスを分かってあげなきゃいけないのかもしれない。 一年前までは、当然のように笑い合っていた仲間の一人なんだから。 気がつけば、アグリアスはぽろぽろと涙を流していた。 アグリアスの涙を見たのは初めてだ。どんなに戦いが辛くても、仲間が戦死した時も、涙なんて見せなかった。 その気丈な人が俺の前で涙を流している。どうして良いのか、分かんなくなる。 「泣かないでくれよ…。あんたに泣かれるのは嫌だ…」 綺麗なアグリアスが傷つかないように、守ってやりたいと思ってた。 だけど、今アグリアスを泣かしてんのは俺だ。 「誰の所為だと思っている…っ」 「分かってるよ。でも、俺どうして良いのか、分かんなくて…」 続 -
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