君と二人なら (4) - 2006年03月04日(土) 俺はアグリアスの話を聞いて、少なからずショックを受けていた。 戦争が終わって、一緒に過ごした日々は過去になって…、でも別々に暮らすことになっても、俺もアグリアスも変わらないって思ってた。 綺麗なのに強くて、剣の腕が凄くて、凛々しいアグリアス。 だけど、もう剣を持つ理由もなくて、アグリアスも“普通の貴族のお嬢さん”になっちまった。 やっぱり俺の手が届かない人なんだ。 分かってたつもりだった。だけど、分かってなかったんだ。 だって、俺は今の現状を目の辺りにして、ショックを受けてる。 ドレスやアクセサリーで、綺麗に着飾っているアグリアス。“貴族”の婚約者。 明らかに俺とは住む世界が違う。 「結婚すんだ?姉さん」 「だから、嫌だから…」 「それはもう聞いたけどさ。でも、貴族ってそーゆーもんなんだろ?親が決めた相手と…って、よく聞く。だったら、あんたも…」 「嫌だ!私は好きでもない相手と結婚などしない!」 言い切った…な。確かにそれが通れば良いけれど。 でも、それが出来ないのが貴族なんだろ? 家の為、金の為、権力の為に、好きでもない男と結婚させられる。 俺はそれで良いのか?アグリアスがあの嫌な感じの野郎と結婚しても…。 「…好きなヤツ、いんのか?」 そう尋ねると、アグリアスは頬を赤らめて目を逸らした。 「…私がわざわざゴーグまで逃げてきた理由が分からないか?」 分かるよ、分かるけどさ。 結婚なんかすんな。俺と逃げよう―――そう言うのは、簡単なんだ。まあ、勇気はいるけど。 だけど、言っちまって良いのか、悪いのか分かんねぇ。 俺と逃げたら、アグリアスは“貴族であること”を捨ててしまうことになる。 アグリアスの運命を大きく変えることになるんだ。 それでアグリアスは幸せになれるんだろうか…。俺はアグリアスを幸せに出来るんだろうか。 分かんねぇんだ、不安なんだ。手の届かない人を、届く場所まで落として良いのか。 「私はお前が…」 「姉さん、言っちゃ駄目だよ。俺も言わねぇからさ。それで良いだろ?」 俺はアグリアスの言葉を遮るように言った。 駄目だと思った。俺には出来ない、と。 俺が幸せに出来るかどうか以前の問題だ。そういうことを考えちゃいけない人なんだ。 「何が良いんだ!?」 「良いんだよ。あいつ…、感じ悪そうだったけど、金持ちそうだったし、きっと幸せになれるよ。だから、大丈夫だ」 何が“大丈夫”なんだろ…。よく分かんねぇけど…。 「俺は一生かかっても、その首飾りも指輪も買ってやれそうにねぇもん。だけど、綺麗だからさ。そっちの方が良いと思うし」 手の届かない人なら、せめて幸せになって欲しい。 その相手が俺じゃなくても、それは仕方がないことだから。 続 -
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