16.力(4) - 2006年02月26日(日) そろそろ帰ろっかな。一人でいる時に、変なのに遭遇すんの嫌だし。 溜息をもう一つ吐いて立ち上がると、アグリアスが慌てたように走ってくるのが見えた。 どうしたのかな…。あ、これ落としてることに気がついたとか? 「ムスタディオっ、この辺に何か落ちてなかったか!?」 肩で息をしながら、アグリアスは酷く焦ったように尋ねる。あ、やっぱり、と思った。 「おお、これだろ?姉さんのだと思って、壊れてたから直しといたぞ。ほい」 ポケットから取り出して懐中時計を差し出すと、アグリアスは大事そうに両手で受け取った。 「直したって…、直せたのか!?」 「うん、だって歯車外れてただけだし。もうちゃんとネジ回しとけば動くぜ」 「本当か!?…本当だ、動いている…。凄いな、お前」 アグリアスは嬉しそうに懐中時計を見つめ、子供のように無邪気に微笑んだ。 あ、可愛い…かも…。 「そんなに感激するようなことじゃないぜ?これぐらい、誰だって直せるさ」 「そうか?だが、私はこの懐中時計が動くのを初めて見た。それが凄く嬉しい」 アグリアスは本当に嬉しそうで、全然大したことした訳じゃないだけに、照れくさくて俺は思わず目を逸らした。 「これは祖父の形見なんだ。両親から受け継いだ時には、既に壊れていてな。直らないのだと思って、諦めていたが…。動いているのを見るのは嬉しいものだな。有り難う、ムスタディオ」 「大したことじゃねぇって」 「大したことではなくても、私は嬉しいのだ。ならば、礼を言うのは当然だろう?」 ヤバ…、ドキドキする…。 そんなに嬉しそうに笑うなよ。綺麗な顔で笑うなよ…。 取り返しのつかないこと、しそうになるじゃんか…。 「お前は弱い訳ではないじゃないか、ムスタディオ。これがお前の力だろう?」 「え?だって、こんなん出来たって役に立たねぇって!」 戦場に出れば、何も役に立たない力。そんなのあったって意味ないし、意味がないなら無くたって構わないのに。 「そんなことはない。壊れた物を直すことが出来る、新しい物を作り出すことが出来る。立派な力だ」 「だけど…」 「悲観するな。お前にはお前の力がある。私達には出来ないことを、お前が出来るんだ。誇りに思え」 ああ、何でコイツは…、こんなにも強いんだろう。 強くて、気高くて、綺麗なアグリアス。敵わないよなぁ、器からして。 「…サンキュ」 「何故お前が礼を言うんだ?おかしな奴だな」 「うん、だけどさ。ありがとな」 「まあ、良いが…。こちらこそ有り難う、ムスタディオ」 ズボンに付いた埃を軽く掃って、立ち上がる。 「帰るのか?」 「うん、一緒に帰ろうぜ」 並んで歩き出すと、アグリアスはまだ嬉しそうに懐中時計を眺めていた。 「あのさ、やっぱあんたが“普通の貴族のお嬢さん”じゃなくて良かったって思うよ」 「なんだ?唐突に。話を蒸し返すな」 「分かんねぇなら良いさ」 自分の弱さと強さを気づかせてくれたあんたと。 出会うことが出来て良かったよ、本当に。 いつかあんたピンチになった時、俺は必ずあんたを守るから。 綺麗なあんたが傷つくことがないように。 了 ***** 中途半端なとこで止めたまま、超久しぶりになっちゃいました、すみません(てへv) ここでは初めてのノーマルカップリングですね〜。大好きなんですよ、この二人。 ゲーム中ではラブが生まれそうなシーンなど一つもないですけどね(泣) 優しくてヘタレで無教養(“本当かい!?有り難う、お姫様”の台詞で、無教養決定)なムスタディオと、しっかり者の姉御肌で男勝りな意地っ張りアグリアス。絶対上手くいくと思います。 最初は反発しながらも、少しずつお互いの良い所に惹かれていく感じが良い…! でも、アグリアスは王家直属の近衛騎士団ということは貴族だと思うので、身分違いの恋。 なので、この小説は“お互い大切だと思っていることは分かっているけど、口には出さない二人”って感じですね。 エンディング後はどうなるんでしょうかね。結ばれるには駆け落ちしかないと思うんですけど…。 そんな話も書きたい遙でした。でも、そこまで書くのもどうかと…。 -
|
|