16.力(3) - 2006年02月21日(火) 「…昼間のことだけどさ…」 「昼間?ああ…。まさかお前、そんなことで悩んでいたのか?」 「そんなことって言うなよ…。情けねぇじゃん、俺…」 女に守られて、今こうして生きている俺。死んだ方が良かったとは思わない。だけど、自分の不甲斐ない自分に嫌気が差す。 「そんなことはない。あの時、私がお前を助けることが出来たのは偶然だ。気にするな」 偶然が二回も三回も続けば、そりゃ必然って言うだろ…。 どう考えたって、俺はアグリアスより弱い。守ってやることは出来ないんだ。 「弱いよなぁ、俺…。もっと力があれば…」 「…私に助けられたことがそんなに不服なのか?」 「不服っつーか…、情けないじゃん。女に守られて…」 男なのにさ。守ってやるべき立場なのに…。 「女が男を守ることはそんなにおかしいことか?女は男に守られるべきなのか?」 アグリアスは僅かに顔を歪めて俯いた。 憂いを帯びた表情に、ズキンと胸が痛くなる。 「大切な人を失うのが悲しいのは、女だって同じだ…。ならば、それを阻止したいと思うのは当然ではないか」 泣いているかもしれない。だけど、それを確認する前にアグリアスは顔を背け、走り去っていった。 ヤバ…、泣かせたかもしんない。 最低だ、俺…。好きな女に守られて、いじけて、泣かせてどうすんだよ。 「バカみてぇ…」 大きな溜息を吐いて項垂れる。 本格的に落ち込んできた…。 項垂れたまま地面を見つめていると、草むらの中にキラリと光る何かを見つけた。 何だろう?と思って、それを拾い上げると鎖がついた銀製の懐中時計だった。月明かりの下で、キラキラと光っている。 「すげぇ…、年代物だ。姉さんが落としたのかな?」 ちょうどアグリアスが座っていた辺りだけど。 懐中時計は少し古ぼけているものの、綺麗に磨かれていて持ち主の大事な物であることが伺える。 蓋を開けてみると…、動いてない。ネジを回しても動かないってことは、多分壊れてる。 軽く振ってみると、中でカタカタと音がした。 「…歯車が外れてるとか…、そんな感じかなぁ」 用具入れからネジ回しを取り出して、中を開けてみると思った通り歯車が一つ外れていた。 歯車を元の位置に戻して、もう外れないようにきつめに留める。 「よし、これで動くはず…」 もう一度ネジを回してみると、今度はコチコチと規則正しい音が響いた。 姉さん、喜ぶかな…。こんなもん、直せてもあんまり意味ないんだけどな。特に戦では。 後で渡しとこ。それにちゃんと謝らなきゃな…。 俺は懐中時計をズボンのポケットの中に仕舞った。 続 -
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