君と二人なら (1) - 2006年02月27日(月) 再び訪れた平和な日々。 少しだけ退屈で寂しくもあったりするけど、それでも愛しい日常を打ち壊すように飛び込んで来たのは、よく見知った美人だった。 「助けてくれ、ムスタディオ!!」 バタンと乱暴な音を立てて開いた扉の先には、綺麗で凛々しかった…筈のアグリアスだった。 「姉さん、どうした…って、ええ〜!?」 相変わらず機械弄りの日々を送っていた俺が、叫び声を上げたのも無理はない。 大きく胸が開いた水色のドレス。綺麗なレースとシルクの生地、大きく広がった裾が印象的だ。 高く結い上げた金色の髪と銀の髪飾りに、見たこともないくらい大きなダイヤが付いた首飾り。 だ、誰だよ、この人。声はアグリアスだった。顔も…似ている。だけど…。 「…ど、どちらさんで?」 「私だ。アグリアスだ!追われている、匿ってくれ!」 「ホントに姉さんかい?どうしちゃったんだよ、この格好…」 あんなに男らしかった姉さんが。それにあんなにドレスは嫌だって言ってた癖に。こんなにヒラヒラで綺麗なもん着ちゃって…。 「話は後だ。追われてるんだ、助けてくれ!捕まったら、私は…」 目を潤ませて、縋りつくように服を掴まれる。 そ、そんな目で俺を見んなっ。女の格好で、俺に近づくなっ。ヤバイから、ホントに! 「わ、分かった。とりあえずここに入れよ」 床の絨毯を捲り、地下室に繋がる蓋を開ける。 地下室と言えば聞こえは良いけど、ただの物置だったりする。 がらくただらけで狭いし、埃っぽい。明かりもない。だけど、俺んちで隠れられる所って言ったら、ここぐらいしか思いつかなかった。 「大丈夫か?暗いし、狭いけどちょっと我慢しろよ。あ、服汚さないようにしろよ」 地下室の階段を降りてくアグリアスに手を貸してやる。スカートが縺れて、降り難そうだ。 今その手を包んでいるのは、よく見慣れたグローブじゃなくて、シルクの白い手袋だった。やっぱり違和感を感じずにはいられない。 「有り難う、ムスタディオ…」 …なんかいつもと違うな。弱気というか…、素直というか…。 普通の女っぽいぞ、姉さん…。 「ここです、ここに入っていきました!」 外で何やら騒がしい声と、数人の足音がした。 アグリアスは戸口の方向を向いて、僅かに身体を震わせる。 きっとあいつらなんだ、アグリアスを追っているのは。 「俺が開けるまで、出てくるなよ。じゃあな」 地下室の蓋を閉めて、元通り絨毯を敷き直す。 ちょうど蓋がしてある場所に座り直し、俺は再び機械弄りを始めた。 続 -
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