14.蝶 (3) - 2005年07月29日(金) 「飛ぶって…無理やろ、それは」 「イメージだ。突然消えてしまいそうだということだろう。だから、お前を監視しているのだ」 「何で?」 「監視していれば、消えていなくなる前に俺が捕まえる」 「いや…、そうやなくて俺が突然消えたら困るん?」 「困るな」 「何で?」 「…分からん。でも、困る。何故だろう…、これから考察せねばならん」 そう言った不破は真剣な顔をしていた。 どういう意味なのか…、不破は本気で分かっていない。 それを分かってしまった佐藤だけが妙に気恥ずかしくて、不破から顔を逸らした。 何故、自分だけが恥ずかしくなるのか…、何だかもどかしい。 「不破センセ」 「何だ?」 「…そっち行ってもええ?」 「ああ」 佐藤は立ち上がるとコンクリートを蹴って、不破のすぐ傍に着地した。 身軽なその姿を見ていた不破は、本当に羽が生えているのではないかと思う。 「不破センセ、足伸ばしぃ」 「何故だ?」 「膝枕してや。えーやん、おベンキョしとるだけやろ?」 「そうだが…。分かった」 不破が足を伸ばすと、佐藤はちょうど太ももの辺りにコロンと頭を乗せた。 「不破センセ、太もも硬いで。もっと太ってや」 「男なのだから仕方がないな。今度は女子にしてもらえばいい」 「せやなぁ」 「やっぱり駄目だ。してもらうな」 「何やねん、それ」 くすくすと笑った後、佐藤は静かに目を閉じた。 寝るつもりだったのかと、不破はようやく自分に膝を伸ばさせた理由を理解する。 訪れた静寂の時。しかし、開いた教科書の内容はまるで頭に入ってこない。 聞こえてくるのは風の音と、グランドで体育の授業を受けている生徒の無邪気な笑い声。 そんな音よりも、不破には自分の心臓の音が一番大きく聞こえてくる。 トクトクトク…と、それ以上は速くならなくても、いつもより速まったまま元には戻らない。 「なぁ、不破センセ」 寝ていると思っていた佐藤の声が聞こえてきて、不破は少し驚いた。 「寝ていなかったのか?」 「目ぇ閉じてただけや。あんなー…」 「何だ?」 「俺、羽なんか生えてないで?」 「そうだな…、分かっているつもりなのだが…」 「でも、消えてしまうかもしれへんねん」 「…それは駄目だ」 「せやから、ちゃんと“監視”しといてや」 成樹は目を開いて、にこりと微笑んだ。 「俺がどこにも行かんよう、どこ行っても捕まえられるよう、見張っといてな?」 成樹の笑顔はあまりに綺麗で、本当に消えてしまうのではないかと思った。 「ああ、いつも監視していてやる。お前がどこにも行かないように。どこにいても捕まえられるように」 「うん」 「だから、突然消えてしまうかもしれないなどと言うな。俺がそんなことをさせはしない」 「わーっとるって。頼りにしてんで、不破センセ」 佐藤はそのまま眠りについてしまったらしい。 チャイムの音が遠くで聞こえた。どうやら6時間目もサボることになりそうだ。 それでも心地よさそうな佐藤の寝顔を見つめ、不破はいつもよりも充実した時を過ごしたと感じていた。 羽が生えていようと、生えてなかろうと、消えてしまう前に必ず捕まえてみせる。 だから、いつも傍にいよう。 その存在を確かめられるように。 了 ***** 不破シゲです。ホイッスル!は不破シゲなんです! マイナーと言われようと、不破シゲなんですよ!!(しつこい) 実はこれを書いたのは、今から4、5年前。 昔に書いた物を引っ張り出してきて、お題小説としてUPするのは反則技な気がしてなりませんが(爆)、お題一覧を見ていて“ああっ、蝶と言えば!”と思ったのです。 どっちかと言えば、“翼”な気がしないでもないですが、これを書いた当時、“不破は目に見える物しか信じてなさそう。だから天使じゃなくて、蝶や鳥だな”と思った記憶が。 そんな訳で、私的には蝶のお題に一番合ってる気がします。 -
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