14.蝶 (2) - 2005年07月28日(木) 「…不破が俺に会いに来てくれてるんならええのになって思ったんや」 ぽつりと、小さな声でそう呟いた佐藤の表情は不破には分からない。 「…何故だ?」 「分からん、そう思っただけやねん」 「そうか」 一応納得したように頷いて、不破は再び教科書に目を落した。 「…って、不破センセ?俺がゆーたら教えてくれるんやなかったん?」 再びうつ伏せになり、佐藤は不破を睨み付ける。 もちろん本気で怒っているわけではないのだけれど。 「…そんな約束したか?」 「したで!確かにしたわ!!ずるいやん、早よ教えてや」 「冗談だ。教えてやる」 ふっと優しい笑みを浮かべた不破に、佐藤は目を奪われて離せなくなった。 「実は、その理由が俺自身よく分からなかったのだ」 「うん?」 「分からないことを分からないままにしているのは嫌いだ。だから考察してみた」 「ほー、ほんで結果は?」 「監視をしに来ているらしいということが判明した」 「…は?」 不破の答えに、佐藤は間の抜けたような声を出した。 「意味が分からないのか?監視というのはある人物、物体などを警戒して見張る…」 「あーっ!意味は分かんねん!つか、誰が?」 「俺が」 「誰を?」 「佐藤を」 監視をする―――不破らしいと言えば不破らしい答えなのだが、監視されなければならない理由が分からない。 「何で、俺を監視してるん?」 「…時折、佐藤について思うことがある。自分で考えても、理解しがたいことなのだが…」 「うん?」 「俺は佐藤に羽が生えているのではないか、と思うことがあるらしいのだ」 「…は?」 これはまた、突拍子もない答えである。 どう答えていいのか分からず、佐藤は黙って不破の話を聞くことにした。 「別に羽が生えて見えるというわけではないのだ。科学的に考えても、そんなことは有り得ない」 「せやな…、人間に羽は生えんで?」 「そうなのだ。だがしかし、時折羽が生えているのではないかと思うことがあるのは確かだ。俺の知識の中ではどうしても理解出来ん。だから、風祭に聞いてみた」 「ちょお待て!カザに聞いたんか!?俺に羽が生えてへんかって?」 そんなメルヘンチックな話、あまりに恥ずかし過ぎる。 「いや、そう聞いたわけではない。ある人物に羽が生えているのではないか、と思うことがある。何故そう思うのだろうかと聞いた」 「なんや…、安心したわ。ほんでカザはなんて答えたん?」 「飛んで、どこかに行ってしまいそうなイメージがあるのではないか、と教えてくれた」 続 -
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