14.蝶 (1) - 2005年07月27日(水) 蝶のように、鳥のように、羽が生えているのではないか?―――と思うことがある。 何故そう思うのか不思議でならなかった。羽が生えている所を実際見たわけではないし、そんなこと有り得ないのに。 よく晴れたの日の昼下がり。佐藤はいつものように授業をサボって、屋上で昼寝をしていた。 佐藤はよく屋上で授業をサボる。 ただでさえ教師の評判は最悪のサッカー部だ。キャプテンの水野の苦労は絶えないのだろう。 可愛そうやなーと、まるで他人事のように思った―――原因を作っているのは主に佐藤自身なのだが。 「なぁ、不破センセ」 「何だ?」 いつものように屋上でサボっていて、始業の鐘が鳴る少し前の現れた不破に声をかけた。 佐藤は塔屋の上、不破はその壁に寄りかかっている。いつもと同じ位置である。 「空、見てみぃ。ええ天気やで?」 不破は伏せていた顔を上げ、言われた通り空を見上げた。 雲一つない真っ青な空。暑い季節が過ぎていったせいか、涼しい風が吹いていて日陰ではなくても過ごしやすい。 「そうだな。だが、夜は降水確率が80%だ。出掛けるなら、傘を持って出た方がいい」 「そうなん?こんなええ天気やのにな」 「しかし、天気予報という物はあてにならんからな。天気予報とは、天気図などから天気状態の時間的推移を分析し、これからの大気の状態を予測した物で…」 「不破センセ、考察はええから!それより聞きたいことあんねん」 もう一度見上げれば、佐藤が頬杖をついてこちらを見下ろしていた。 「何だ?」 「こーんなええ天気なのに、教室で授業なんか受けてられへんって気持ち、俺もよー分かんねん。けど…、何で青空の下で本なんか読んでるん?」 佐藤にとって、不破の行動はいまいち理解不能である。 不破は屋上に来る時、必ず本を持ってくる。それが授業に関係のない本ならまだしも、教科書なのだ。 最近気がついたことなのだが、不破が持ってくる教科書はサボっている授業の教科書らしい。 つまり不破はクラスメイトとは別の場所にいながら、同じ勉強をしているのだ。 …サボる必要性はどこにあるのだろう。 「勉強しているのだが?」 「それが何でやって聞いとんねん。おベンキョしたいなら、授業受ければええやんか」 「…授業を受けるのが嫌なわけではない」 ほんの一瞬、迷うように沈黙を作った不破に、佐藤はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。 「ほんなら何でサボってるん?授業態度ってのも内申に入るんやで?」 「授業に出ている時は、真面目に受けている振りをしている」 「振りなん?」 「教師の話を聞いているより、自分で教科書を読んだ方が分かりやすいからな」 「そうなんか…ってオイ!違うわ!そうやなくて、何で授業をサボるんやって聞いとんの!」 話を逸らされそうになり、佐藤は突っ込みを入れつつ、元の話に戻した。 不破は佐藤をじっと見つめて、ため息をつく。 「言わないと駄目なのか?」 「駄目や。不破センセが何しにここに来とるんか、気になるもん」 「何故、気になるのだ?」 不破の問いに佐藤は“しまった”と言う顔をして、口を噤む。 その頬は微かに赤く染まっていて、動揺しているらしいということが分かった。 「お前がその理由を教えてくれるのなら、俺もここに来ている理由を教えてやろう」 「言わないと駄目なん?」 「ここに来ている理由が知りたくないのか?」 半ば脅すような口調。強い視線が痛くて、佐藤は不破から目を逸らした。 うつ伏せになっていた身体を、コロンと転がして空を見上げる。 続 -
|
|