Promised Land...遙

 

 

墜落天使 1−1 - 2005年03月29日(火)


幽霊だというなら、少しは信憑性があると思う。
俺はそんなものに会ったことはないし、会っても困るだけだと思うが、それでも何となく現実的にいそうな気がする。
だけど、目の前にいるこの男は何だ?頭がおかしいとしか思えない。じゃなきゃ、新手の宗教の勧誘だ。
「信じられないかもしれないけれど、僕天使なんです」
空から落ちてきた男は、天使と名乗った。




俺の家の庭には大きな木がある。
俺が生まれる前―――というか、両親がこの家を買った時には既にあったらしいから、結構古い木だ。
植物に興味がない俺には、それが何の木なのか分からないんだが。


自室で本を読んでいた俺は、外で大きな音がするのを聞いた。バキバキっとか、ガサガサっとか、そういう音だ。
何事かと思い、俺は窓を開けてベランダへ出た。
そこには一人の男がいた。生い茂る木の歯に埋もれるように、男は引っかかっていた。
男は俺を見るなり、苦笑いを浮かべ、
「こんにちは、どうもすみません。屋根の上を散歩していたら、バランスを崩しちゃって…」
と、言った。


この時点で、俺は男を変人だと判断した。
どこの世界に屋根の上を散歩する人間がいるんだ。
散歩は道でするもんだ。馬鹿じゃないのか、コイツ…。
それでも、俺はまだ男を人間だと思っていた―――色々とおかしな点があるのに、全く気がついていなかった。


「馬鹿か、お前…」
「あはは、すみません。手を貸してくれませんか?身動きが取れなくって」
俺はこれみよがしに大きな溜息を吐いて、男の腕を掴んで強く引いた。
このまま木から下りることは出来ないだろう。落ちて怪我でもされたら困るし…。
仕方なくベランダに下りさせることにする。ベランダと一番近い枝は、数十センチほどしか距離がない。
手を貸してやると、男は思っていたよりもすんなりとベランダに着地した。
「有り難うございます、人間さん」
…?“人間さん”って、変な呼び方だな。
普通なら“お兄さん”とか…、“おじさん”という歳ではないから、やっぱり“お兄さん”じゃないか?
まるで自分が人間ではないみたいな…。
まあ、いいか。相手は変人だ。常識が通用しないのかもしれない。


「手当てぐらいしてやるから…、終わったら出てけよ」
「手当て?」
「怪我しただろ?凄い音したぞ?」
悪ければ骨の一つは二つ、折れていても不思議じゃない。
だが、男は俺の言葉にけらけらと笑った。
「怪我なんてしませんよー、これぐらいで。だって、僕天使ですよ?殺したってそう簡単には死にませんよぅ」
「は?」
「信じられないかもしれないけれど、僕天使なんです」
…男は頭がおかしいらしい。変人どころのレベルではなかった。






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