17.桜 (1) - 2005年03月14日(月) 時が止まってしまえばいいのに―――何度、そう願ったか分からない。 しかし、どんな願っても時は規則正し過ぎていき、やがて雪は溶けて春が来る。 あんなに好きだった薄紅色の花が、今は見るのが嫌で仕方がない。 その綺麗な花びらが大好きなあの人を連れて行ってしまうのだと思うと、憎まずにいられなかった。 上村は友人らが驚愕するほど暗い面持ちで、卒業式を迎えていた。 昨日まで卒業するという実感が湧かなかったが、当日ともなればそうはいかない。 大好きな人にいつでも会うことが出来たこの場所は、もう自分達の物ではなくなってしまうのである。 神条に会えなくなる。地元に住んでいるならまだしも、神条は東京に行ってしまうのだ。 そのことについて、神条からは何も聞いていない。何も言われていないのだ、“待っていろ”とも、“ついて来い”とも。 それは永遠の別れを意味しているのだろうか?そう思うと、上村は泣きたくなった。 卒業なんて関係ない、ずっと変わらないと思っていた、のに。 神条はそうは思っていなかったのだろうか。だから、離れていくのだろうか。だから、何も話してくれないのだろうか。 悪い方へばかり考えてしまい、神条を信じていいのか分からなくなる。 上村は小さく俯いて、涙を流した。 「ねえ、神条知らない?」 式を終えた後、上村は姿の見えない神条を探していた。 「さっき隣のクラスの子に呼ばれて、どっか行ったよ」 そう答えたのは、上村の女友達の七瀬である。 美人と言える顔立ちだが、行動的でどちらかと言うと男らしい性格の女だ。 上村の良き相談相手でもある。 「ええ!?女の子!?」 「そー、カワイイ感じの子。上村、やばいんじゃないのー?」 七瀬は上村をからかうように、けらけらと笑う。 「やばいよ、やばすぎるっスよ!どこ行ったか、知らない!?」 「知らないけど、二人っきりになれるとこなんじゃないの。体育館裏とかさ。つか上村、マジで神条取られると思ってんの?」 「それはないかもしんないけど、ないって信じてるけど!ボタン!!」 「はぁ?」 「神条の第二ボタンを貰うのは俺なの!誰にも渡さないのーっ!」 そう叫んで、上村は教室を飛び出した。 七瀬の笑い声はそんな上村の耳には届いていない。 上村は二人きりになれる場所―――体育館裏へと急いだ。 七瀬の予想通り、そこには神条と見知らぬ女が立っていた。何かを話しているようだが、声が小さくて内容は分からない。 「だめーっ!」 上村は神条と少女の間に割って入る。 神条は唖然としていたが、今はそれ所ではない。 「神条の第二ボタンは俺が貰うの!絶っっっ対渡さないんだから!」 「お前、何言って…」 「うっさいっ、神条は黙ってて」 上村は神条を庇うように大きく手を広げ、少女を睨みつけた。 睨まれた少女は困ったように俯いて、上村を見ようとしない。 「ご、ごめんなさい…っ。お、お幸せに!」 結局少女は上村の気迫に負け、逃げるように走り去って行った。 上村はほっと息を吐いて、神条に向き直る。 「お幸せにだってさv」 上村の無邪気な微笑みに、神条は深く大きな溜息を吐いた。 続 -
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