6.雪 (1) - 2005年03月11日(金) 『会いたい』―――たった一言のメールが恋人から届いたのは、深夜11時50分のことだった。 何だろう、こんな時間に。神条はそう思いながら、直ぐに上村の携帯に電話する。 上村は一回のコールで直ぐに電話に出た。おそらく携帯電話を手に、神条からの着信を待っていたのだろう。 『もしもし〜、神条?』 「上村、どうしたんだ?こんな時間に」 『んー…、あのね、会いたいんだけど』 「今か?」 『うん、今』 時計を見れば、もう12時になろうとしていた。神条にとってはもう寝る時間である。 『ちょこっとだけでいいから会えない?』 「…明日、学校で会えるだろう」 『明日じゃ駄目なの。今がいい。お願い、10分ぐらいでいいから』 神条が無言で溜息を吐くと、上村はもう一度“お願い”と言った。 いつもヘラヘラと笑っていて、口を開けば止まらないこの男にしては珍しく真剣でどこか縋るような口調だった。 「…分かった、今そっちに行くから…」 『うん、俺ね、今いつもの公園にいるの』 「何!?馬鹿か、お前。風邪を引くだろう!」 一年の中で一番寒いこの時期に。それも真夜中だ。 窓の外に視線を移すと、いつのまにか雪が降り出していた。 寒くない筈はない。外にいれば、10分も経たない内に凍えてしまうだろう。 『平気。バカは風邪引かないって言うし』 「自分で言うな、馬鹿者!とにかく直ぐに行く」 『うん、待ってるからね〜』 上村は嬉しそうにそう答え、電話を切った。 結局神条は、寂しがりやの恋人の願いを無視することは出来なかった。 だが、それはいつものことだ。上村の我侭を無視出来たことなど一度もない。 それは上村の可愛い笑顔が見たいから。 何だかんだ言いつつ、神条は上村にベタ惚れなのだ。 神条は厚手のコートを羽織り、愛しい恋人の元へと急いだ。 続 -
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