5.月 (2) - 2005年03月10日(木) 「いいよ、殺しても」 タカシはにっこりと微笑んで、そう告げた。 「何で…、ホントに死んじゃうんだぞ」 「いいよ」 「死んだら、生きられないんだぞ。美味しい物、食べられないんだぞ」 何言ってんだ…、俺。自分で殺そうとしていて、支離滅裂だ。 「いいよ、カズヤに殺されるんなら。そしたらカズヤ、俺のこと一生忘れないでしょ」 タカシはやっぱり笑っている。 月の毒気に当てられたのは俺だけじゃなく、タカシもだった。 タカシも狂っている。これも月のせいなんだろうか? タカシは死を待つかのように、ゆっくりと目を閉じる。 俺は少しずつ指に力を込めていった。 タカシが苦しそうに顔を歪める。 抵抗すればいいのに、俺の腕を引っ掻いてやればいいのに。 タカシは両手を下ろしたまま、固く握り締めていた。 俺がタカシを殺したら、タカシは冷たくなって、動かなくなって、笑うこともなくて。 ただの肉の塊になってしまう。そんなのタカシじゃない。 …怖い。駄目だ、俺にはタカシを殺せない。 そう思って直ぐに手を離した。タカシが激しく咳き込んで、倒れそうになるのを俺は腕で支えた。 「…殺さないの?」 暫くして落ち着いたタカシは、顔を上げそう尋ねる。 その細い首には痛々しく、俺の指の痕が残っていた。 「…ごめん、ごめんなさい。許して、俺と生きて」 タカシを強く抱き締めて、その肩に顔を埋める。 「うん、そっちの方がきっと楽しいよね。そうしよっか」 タカシに頭を撫でられて、俺は少しだけ涙を流した。 タカシは最初から分かっていたんだろうか、俺がタカシを殺せないことを。 優しくて綺麗なタカシ。俺だけのものにしたいのはホントだけど意味ないんだ、死んだタカシが手に入れたって。 生きて、動いて、笑っているタカシが好きだから。 生きているタカシにしか、俺の狂気は癒せない。 了 ***** うわー…、暗い小説ばっかりー…。いつもはそんなこともないのに。 ていうか、“祈”の後でこの小説はマズイかもしれない。 不快に思った方、いらっしゃったらお詫び致します。 …詫びてばっかりですねぇ。 -
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