5.月 (1) - 2005年03月09日(水) 満月は人の心を狂わせる―――という仮説がある。 ホントなのかウソなのか、俺にはよく分からない。 ただはっきりと分かっているのは、今恋人を殺そうとしている俺は正気じゃないということだ。 俺は気がつけば、タカシの細い首に両手をかけていた。 タカシは何も言わずに、俺を見つめている。怒ることも戸惑うこともなかった。 「…止めないの」 それは何故?という問いかけでもあり、止めて欲しいという願いでもあった。 早く止めて…、お願いだ。じゃないと、俺は…。 「カズヤ、俺を殺したいの?」 逆に問いかけられる。そう思うなら、どうしてそんなに平然としてるんだ。 逃げてくれよ。逃げてくれなきゃ、本当に殺してしまうかもしれない。 「…殺したい」 俺が正直にそう答えても、タカシは逃げることも表情を変えることもなかった。 首にかけた指先が微かに震えている。 タカシを殺したい。俺だけのものにしたい。 俺以外のヤツを見ないで、誰にも触らないで、俺の傍を離れないで。 そんな願いが100%叶う訳がないから、俺は激情を抑えきれなくなる。 それでも、いつもならタカシを殺したいなんて思わないのに。 我慢出来ない。俺は気が狂っている。 不気味なほど、大きな満月が俺たちを見ていた。 続 -
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