++いつか海へ還るまで++

雨が降る 代わりに泣いて いるように

降り続く雨 降り止まぬ雨


2007年02月09日(金) 御噺 『母の恋』

    
それは何気ないきっかけで。
ここだけは そのままに としていた 荷物の整理をやっと。

母の部屋の片隅
箪笥(たんす)の引き出しの奥。
もう 誰も着るひとのいなくなった着物の間に挟まれるようにひっそりと
一冊の古びたセピア色に色褪せたノート。

何気なく開いてみたそこには僕の知らない母が
細い文字で それでも確かに息づいて綴られていた・・・。


**********


「泣かないで」

見えぬ明日が切なくて
絡みつく このしがらみの
越せぬ境に涙する

”泣かないで”
 そう言って

ただ抱きしめてくれたひと




* 七夕に 子らの願いを祈りつつ 重ねて結んだ 切なき想い *

* 涙雨 濡れて溢れて 立ちつくす 渡れぬ遠き 天の川かな *

* 永遠の 叶わぬ夢に 漂って きみと堕ちゆく 星を数えて *

* 短冊の 文字に書けない 胸の内 そっと仰いで 星に祈りを *





  
「雨の街で」

どうして そんなに優しいのと
聞いてみたい気がする

雨の中 

一つの傘をお互いに押し合い
肩を濡らしながら寄り添う

全てから守ることなどできなくても
一緒に傷つくことはできると言った


仄かな温もりだけを信じて
いつまでも 歩いていたい

街に咲く 傘の花のひとつに隠れて

どうか

はずせない指輪をしたこの手を
その手で包んで

許されずともこの雨の中

許されずともこの雨の中




* どうしても 叶わぬ事は あるのだと 思い知る この 雨の火曜日 *

* 涙つぶ そっと集めたような花 替わりに泣いてくれるの?紫陽花 *

* 小雨降る ふと立ち止まる 帰り道 傘もささずに 空を仰いで *




「恋物語」

引き替えに
この痛みと引き替えに
あなたの側にいられるなら

内側から朽ち果てて崩壊していく
この身も


かまわないと思う
かまわないと思う

これほど愛せたのだから

もういい

それでいい

ありがとう

お日さまに溶けながら
わたしはきっと
小さく笑って

きっと

還ります




* 薄紅の 軽く開(ひら)いた唇を ため息ごとに 奪い取られて *

* 煙草吸う きみの背中に 寄り添って のぼる煙の 行き先を見る *





「はずせない指輪」

美しい言葉でなど飾るような恋じゃない

どうしようもないと知りつつ駆け出した
そんな恋

はずせない指輪と捨てられぬ想いと
わたしは瞬間 立ちつくした

選んだのはわたし
他の誰でもなく

だから 泣くのもひとり

はずせない指輪
この大切な小さな者のため

いいえ

選んだのはわたし
誰のせいでもない

はずさなかった指輪

想い出は地の底深く埋めた
誰にも見つけられないところ

だから ほら
もう誰にも壊せない

花は枯れてしまった
わたしは この場所で生きていこう

選んだのはわたし
はずせなかった指輪

わたしは この場所で生きていこう



* 叶わない 夢と知りつつ 約束を きみと一緒に いつか何処かへ *

* 守らない 約束でいい それでいい ずっと待ってる ずっと・・待ってる *





「人魚姫」

眠らせて下さい
どうかあなたの心深くに

何も見えない
何も聞こえない
その場所で

あの時 確かに二人が見たはずの
”永遠”だけ抱きしめて

あなたの中に
閉じこめられたいのです

このまま

わたし


  

* 立ち止まる 我の心を 知りもせず 見上げて絡む 幼子の指 *



「恋」

ずっと 喜びでした
母であることは

妻であることが
苦痛になってしまった時さえ

幼子の頬に頬を寄せる時
私は 満たされていたのです

なのに

今も体はここにあるのに
心は遙かな地平をめざす


許してください

どこにも行かないけれど
どこかに行ってしまった母を

いいえ

許さないでください

遠い目をして
空ばかり 見ている母を




* 微笑みに 微笑み返して 帰る道 往けぬ明日を 胸に沈めて *





「たとえ・・・」

たとえ 強い風が吹いて飛ばされそうになっても
たとえ どしゃ降りの雨に視界を遮られても
たとえ 世界中の声から責め続けられたとしても

それでも 誰にも奪えないものがある
心の中の大切な想い

たとえ その世界が消えて無くなっても

確かに永遠はある

此処に

この胸の中に・・・




* 永遠を 確かにあの日 抱きしめた 溶けあう心 ふたり見た夢 *



***********




短い呟きのように遺された言葉達。
そっとノートを閉じて。

そして 僕は・・・
僕は一つの情景を想い出していた。





「母の恋」

あれは晩秋の晴れた日
母と手をつなぎ買い物に出た
空を飛んでいく一羽の白い鳥
南へ帰るのか

僕と手をつないだまま
母が夢見るようにつぶやいた
「あんな風に飛んでいけたらいいのにね
遠い空の果てまで・・・」

僕はただ 無邪気にうなずいたけど

あの電話
何日か前にかかってきた
その電話に答えながら
泣いていた母の

その言葉の意味が
今なら少しわかるような気がする





僕は空を見上げて
そうして
小さく呼んだ。


母さん・・・・・・・・


二度と還らぬひとが
しまい続けた想いを

そっと
空へと還すように・・・。

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                               ゆうなぎ
  


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