++いつか海へ還るまで++

雨が降る 代わりに泣いて いるように

降り続く雨 降り止まぬ雨


2006年10月19日(木) 夜のブランコ

夜の公園にいた。

ブランコに座って ひとり
目の前の道路を行き交う車の
ヘッドライトの交錯する光が綺麗だな・・と
ぼんやり思った。



その日もいつも通り子供達を朝 何とか送り出して
洗濯だけはなんとか干したけど
後が続かなくて。

流し台は汚れた食器で溢れていて。
大きなゴミは拾って大まかな片付けはするものの
もう数日掃除機をかけてない部屋。
取り込んだ洗濯物が山を作ってる。
二日シャワーを浴びていない髪は痒くてキモチワルイ。

ちゃんとすればいいだけなのにそのちゃんとが
どうにもできない。

仕事もしなきゃと思うのに
PCの前でメールチェックした時点で居眠り。
肝心の請けている仕事が後回しになってる。
自分へのイイワケは”ちょっと休んだら始めよう”

確かに仕事だけは責任があるから余裕はとってる。
でも それもギリギリになってる現状。



その日は特に疲れていて
ちょっと休んで・・のつもりが
夕食準備の時間になってもどうにも起き上がれなくて。


そんな中 また兄弟喧嘩が始まった。
きっかけは何でもそうだけど些細なこと。
理屈屋の一番上の子は言葉でどんどん責める。
口下手で思うようにそれに反撃できない末っ子は手が出る。
大泣きというか吼えながら暴れだす。
それに対して上の子が頭にきて止めるという名目で
叩いたり・・になる。
歳の差がある分 手加減したつもりでも怒りでパンチは重い。
押さえつけて馬乗りになれば下手をすれば大怪我になりかねない。

さすがにわたしは放っておけなくなって
仲裁に入る。末っ子を叱りつつも上の子に注意を促す形になる。

末っ子は窓ガラスも割れそうな声で泣き喚いている。
一番上は自分の方に理があると思っているから
「悪いのは理屈に合わないワガママなアイツの方なのに
なんで自分までいつも叱られないといけないんだ!」と
睨みつけながら切り裂くような言葉を機関銃のように
わたしに向けてくる。
真ん中が扉の影から不安そうな顔をしてみている。


いつ止むともしれない泣き喚く声と
責められる怒声と
ぐちゃぐちゃな部屋がぐるぐるぐるぐるまわって
全部ふっと遠くなって

強烈な自己破壊衝動。



頭を猛烈に壁でもいい床でもいいぶつけたくなった。

でも
壁も床もここでは周囲に迷惑がかかる。苦情がくる。

腕を切るのは痛いし血が恐い。
飛び降りも恐いし人を巻き込むことになりかねない。
首吊りも苦しそうだし垂れ流しになるのは嫌だ。
ODでは成功の確率が低いし後遺症が残る確率が高い。

ここまで追い詰められてもまだそんなこと考えてる自分の滑稽さ。
とことん染み付いている小心。


それでも居たたまれなかった。
自分が破裂しそうだった。
だから

だから サンダルをつっかけて外へ飛び出した。

背中で子供の呼び声がしたようだったけど
振り返らずにただ
「ちょっと外にいってくるだけだから。
ちゃんと鍵を閉めておきなさい」
それだけ言い置いて。

半袖のヘロヘロTシャツに色褪せた半ズボン。
昼間この格好で外歩いてたら奇異な目で見られても
仕方ないだろうけど幸いあたりは暗い。

ポケットには携帯ひとつだけ。


夜の空気はこの時期さすがにひんやりとしていて
でもその肌寒いくらいの冷たさがむしろ心地よかった。

まだこの時間だと人とすれ違う。
できるだけ人のいない方に向かって当てもなく
ただ歩いた。
多分 どこでもいいから逃げ出したかった。
何ももう聞きたくなかった。

もしかしたらこれが死にたいということなのかなと思った。
いや死にたくなんかない。
多分生きれるものなら生きたいと
誰よりもそう思いながら みんな でも
溺れるものが空気を求めて喉を掻き毟るように
道を塞がれて。


最期までしがみつくと足掻くと言っていたのに
結局はヘタレのタワゴトに過ぎなかったか とか。
でもそんなことさえ もうどうでもいいように思えて
フラフラと逃げ場所を探しながら歩き続けた。


最期にKの声が聴きたくなって
電話したけどちょうど留守電で。
ああ・・この方がきっと良かったんだって思ったら
暫くしてKからの電話が鳴った。

取るか取らないか暫く迷ったけど
結局 通話ボタンを押した。
Kのいつもの声が聴こえた。
「お風呂に入ってたよ、ごめんね。
 元気がないようだけど どうした?」

外からの電話だと気が付いたようで様子がおかしいのも
わかったようで。

ポツリポツリと脈略ないわたしの話をただ相槌を打ちながら
Kは聴いてくれた。沈黙の長さにも負けずに。

何度か電話を切った。
もうこれでいいかなって思って。
でもKは何度もかけ直してきた。
出なかったからかメールも頻繁に入ってきた。
「まだ一緒にやりたいこと沢山あるんだからね!」
「ちゃんと帰るんだよ。いいね?」

何度目かの時にもう一度だけと電話に出た。

また暫くとりとめのない話をした。
気が付くと町内一周してバス停前の公園に来ていた。



ブランコに座って ひとり
目の前の道路を行き交う車の
ヘッドライトの交錯する光が綺麗だな・・と
ぼんやり思った。

電話の向こうのKに
ヘッドライトの光が綺麗だよ って言ったら
うん、そっか・・・ってとても優しい声がかえってきた。


ああ あたしは誰かに頭を撫でて欲しかったんだって
ただ 何度も何度も何度も。




家に帰り着くと真ん中の子が飛びついてきた。
「お母さん、絶対自殺したりしないで」と
泣きながら言われて
ぎゅうううと小さな肩を抱きながら
大事なあんた達残してそんなことするはずないじゃん・・と
笑って嘘をついた。

そんなことしそうになったけどなんて言ったら
この繊細に脆い震えている心を壊してしまうから。
心の中でごめんと謝りながらそう言った。

末っ子は涙の痕を頬に残したまま 蹲るようにして寝入ってた。
そっと布団に運んでいこうとしたけど重さに引きずるようになって
思わず苦笑した。
目を半分覚ましてたのか無意識なのか首っ玉に巻きついてきた腕が
愛しかった。

一番上の子は部屋にいた。
ただいま と声をかけると おかえり とぶっきらぼうな声が
返ってきたけど、ぐちゃぐちゃだった流し台の洗い物は
全部洗われてた。



本当にマヌケな話。
あれだけ歩いて 結局 戻ってきたのは此処。

でも戻ってくることができて良かった。



生きるということは簡単なようでいてやっぱり難しい。
だからヘタレのあたしなんかはしょっちゅう迷路に突っ込む。
だけどヘタレで有り難いのは臆病者ゆえの躊躇(ためら)い。

ツジツマも何もありゃしない みっともなさの中で
それでも しがみつこうとする本能。

それでもいいから と思った。
それでもいいじゃないか と思った。

なりふりかまわず 生きてやろうじゃないかって。
そのつもりだったじゃないか って。



夜のブランコは優しかったよ。
道路を行き交う車の
ヘッドライトの交錯する光が

とても綺麗だった。


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                               ゆうなぎ


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