はい。 ちゃんと、道頓堀の劇場から生還しておった管理人です。 そんなこんなで病み上がりのわたくし、ミナミの街にそぼ降る雨の中、咳止めシロップ片手に道頓堀松竹座は中村獅童主演『丹下左膳』を観て参りましたともさ。 すでに予想済みかと思われますが、とりあえず今日の一言は、
中村獅童、めっさオットコ前ェェェェ――――――――!!
・・・・・・・・・・先に謝っておきますと、わたくし、テレビやインターネットで梨園の異端児とか歌舞伎界の麒麟児とか持て囃され、女性誌でも紙面を賑わす金髪の彼をたまに見かけるたび、 「そんな騒がれるほどいい男か?」 と、ちょろっと思っておりましたが、それは単に中村獅童の演技を見たことがなかった事からきていた素朴な疑問に過ぎず、それがあんな、出てきただけで舞台の空気がぱっと華やぐ役者さんだったとは思わなかった。 主役を張れる時代劇アウトロー役者の要素は「色気」と「妖気」と「子供っぽさ」だと私は勝手に思っているのだが、その全てをカバーしている上に「気品」まで付けられてしまっては、
「アンタ完璧」
としか言いようがないですね。いいぞ私、ひよったOL生活で目が節穴になっているみたいだぞ!! それでまた、今回の左膳のキャラクターも役者に合わせて作られたんだろうが、イケてる!!櫛巻お藤と合わせたこの夫婦ともども、ちょっと青すぎるかなと思わないこともないが、まあ気になるほどではないからOK!! で、今回この舞台の脚本を書かれた人は、 『ミステリー2時間ドラマのクレジットでよく見かける人』 ぐらいの認識しか起こらなかったのであるが、よくよく考えれば普段滅多にテレビを観ない、無論シナリオライターなど知るはずもない管理人でさえ知っているという事は、たぶんかなりその道で場数を踏んだ方なんであろうと思われ、略歴によると、放送作家からシナリオライター、今では舞台の脚本も多数手がけておられるらしい。 という事で、今回の舞台は、さすがと随所で思わされるものだった。 いわゆる勧善懲悪活劇のパターンを踏襲しつつ、思わせぶりな伏線や無駄な説明を削ぎ落とした中にも、人物の配置とキャラをさりげなく提示するエピソードと小技の数々が効果的に仕掛けられており、また「泣かせ」「笑い」「アクション」「恋愛」などの娯楽作品に不可欠であるファクターも、過不足ないバランスで盛り込まれている。 上演時間3時間半といえば、結構な長丁場だと思うが、
「ここまで人物を錯綜させておいて、収拾をどうつけるのか」
と観客の興味を惹きつけておくだけの余裕も忘れず(結構あっさりカタついちゃったんだけど)、小分けに入れられた幕間前後の場面もメリハリが効いていたため、冗長だとも中弛みだとも全く思わなかったね。 一言で言ってしまえば、「何から何までよくできた娯楽作品」。 同じ時代活劇を扱っていても、乗り物みたいな名前をした某劇団の舞台のように大した突っ込みもない代わり、あえて自分を丸出しにしてまで特筆したい部分(管理人のツボを押さえられた部分)も思い当たらず、
「すごく面白かった」
なんて間の抜けたコメントしか出てこないのだが、この状態は、 『受け手側がスーッと作品世界に移入していって、浸りきって気が付いたら終わっている』 という、娯楽物の理想型と一説に言われる状態に他ならず、音楽にしろ映画にしろ舞台にしろ、こういう感覚に陥ったものをもう1回観たら、最初は見逃した細部もじっくり味わえてどはまりするのがいつものパターンだから、やはりいい作品ということなんだろう。 見逃した例のテレビ版も、脚本と左膳は同じ人だし、DVD欲しくなったなー。
役者も皆さんかなり良かったように思うのですが、特に印象に残ったのは、やはりお笑い要員幕府三人衆(暴れん坊将軍と大岡越前とベンガル)という事で。
管理人、この3人大好きです。
こんな幕府と将軍家、勿論あるわけがないんだけど楽しすぎる。 3時間半、この3人観てても(私は)いいと思ったね。
あとは、山口馬木也を、初めてまともに見たことかな。 柳生藩二万三千石(だっけ?)当主の次男坊で、財政難に瀕した藩を守るために奔走する善人、許嫁は酒井美紀で、敵の悪女(あめくみちこ)に襲われる、もとい口説かれるという実においしい役所でしたね。 私は馬木也(何故か呼び捨て)の出ている『水戸黄門』も『剣客商売』も全然観ていないもんで、中盤までそれが馬木也だとも当然知らずに観ていたんですが、幕間に買ったパンフをパラパラめくっていて、
「ああ。噂の夜叉王丸って、この人か」
と、竹さんがサイトで書かれておられる『水戸黄門』ネタの「ストーカーで風太郎忍法帖ばりの自家発電忍者(あくまでも私見)」と顔が繋がった次第。 生馬木也、格好良かったですよ竹さん。意外にガタイがっちりしてました。
あと、舞台の間、テーマ曲のように何度も流れていた、マカロニウェスタン風のギターの曲が、どっかで聴いた曲のような気がしてしょうがない。 なんかの古い映画のテーマみたいな感じがしたが、颯爽たるアウトローの雰囲気とめちゃくちゃ合っていたので、オリジナルだろうか? なんだろー?
・・・・・・・・・こんな感じで。 帰ってきてから、パンフにも書かれていた戦前の『丹下左膳』映画のことが気になったので、家の本棚から『キネマ旬報別冊・伊藤大輔』なる古いムック本を引きずり出し、全作品リストとあらすじを見てみたり、なんだかんだで気分転換になったばかりでなく、とても創作意欲が刺激された一日でありました。 が、今回のインフルと前日の出勤+寝不足に加え、雑踏の中を歩いたのはやっぱりかなり体力を消耗したらしく、吹きつける風雨の中をぜーひー息切れしながら、片手で傘差し片手で自転車押しながら帰っている時は、 「昼飯代わりに食ったエッグタルトが喉まで逆流しかかったよ」 とか言って、感想話を最後で台無しにしてしまうんですが。
|