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2006年10月23日(月) “賞味しちゃう”期限

阿川佐和子さんのエッセイに、「食品の賞味期限なんて守らないよ」と仕事仲間に話したら十人中九人に絶句された、という話があった。
最近の人は賞味期限に神経質すぎる。弟も期限を一日過ぎただけでさっさと捨ててしまうが、なんてもったいない。色や匂いが変でなく、ちょっと舐めてみて苦いとか酸っぱいとかがなければ、まず問題ないんだから------というのが阿川さんの言い分である。

阿川さんのエッセイを読んでいると、エ!と驚かされることがしばしばある。過去、
「ブラジャーを取り替えるのは三週間に一度。パンティじゃあるまいし、そんなに頻繁に替える必要があるだろうか」
にはギャーとのけぞり、
「炒め物の皿に残った汁を白いごはんにかけて食べるのが好きだが、店員さんにはあきれた目で見られる」
にはそりゃそうでしょうと頷いた。私の“常識”とはかなり違うなあと感じる部分が少なくないのだ。
しかしながら、この「賞味期限を気にしない」については私も同じ感覚である。傷んでいるかどうかではなく期限が切れたということでポイとする人のほうが信じられない。

以前友人が、夫の実家から届いた宅配便を開けてみたら調味料の類だったのだが、期限切れのものばかりだった、とぷりぷりして言うのを聞いたことがある。
「あなた車運転しないから、重い買い物は大変でしょ。うちにあったの送っといたわ」
と言う義母に彼女は口先だけで礼を言い、電話を切ったあと全部捨てたという。
「ふうん、そんな古いの送ってきてたんだ?」
「そうやねん、先月の日付とかやで。信じられへんわ」
えっと驚く私。身内とはいえ人に期限が切れた食品を送る感覚は私にも理解できない。だけど捨てることはないだろうに。だってサラダ油に味噌にマヨネーズでしょ?ひと月やそこいら期限を超えていたってどうってことないじゃない。

しかし、「期限が切れたものを食べて、もしなんかあったらどうするの」と彼女。そんな、なにも起こらないってばあ……と笑い飛ばしたけれど、周囲を見渡せばこういう人はめずらしくない。
私の妹は結婚してから賞味期限を気にするようになったという。彼女の夫が期限切れのものを嫌がるからである。それこそたった一日過ぎただけでも口にしようとしないらしい。
「そんなん黙って出したらええねん。腐ってるわけじゃないんやからばれへんよ」
「私も最初そう思っててんけど、これがけっこうな確率でおなか壊すんよ。私はなんともないのに」
仲良しの同僚の夫もそのクチで、冷蔵庫に期限切れのものを発見すると迷わず捨ててしまうという。そのため、彼女が使おうとしたときには処分済みで、慌てて近所のスーパーに走るということがよくあるそうだ。

周囲の話を総合すると、女性よりも男性のほうが賞味期限にうるさいように感じる。
思うに、日常的に買い物をしたり料理をしたりする女性は食品の“健康な状態”を知っている。だから見た目や匂いのちょっとした異状にも気付くことができる。自分の目や鼻で、「鮮度は落ちているけど、火を通せば問題ない」とか「期限内だけど、やめておいたほうがよさそうだ」といった判断ができるのだ。
たとえば、私は期限から一週間過ぎたくらいの牛乳なら平気で飲んでしまうが、夏場だとちょっぴり気になることもある。そんなときは鍋で沸かしてみる。モロモロにならなければ傷んでいないということだからね、とむかし母に教えてもらったのだ。揚げ物用のサラダ油もしかり。開封してからけっこう経っているけれど、酸化していないかしら?と思えば熱してみる。嫌な匂いがたたなければ大丈夫。
しかし、多くの男性はそういった知恵や目安を持っていないため、カビているとか異臭を放っているといったわかりやすい異状がないかぎり“アウト”を見分けることができない。そのため、賞味期限を死守しようとするのではないだろうか。

* * * * *

ちなみに、食品の期限表示には二種類ある。
比較的日持ちのする食品につけられる、美味しく食べられる期限を「賞味期限」と言い、それを過ぎるとすぐに傷んで食べられなくなってしまうという意味ではない。それに対し、日持ちのしない生鮮食品につけられる、安全に食べられる期限が「消費期限」。こちらは、この日にちを過ぎて食べておなかを壊したら自己責任ですよ、というものだ。
五、六年前から「製造年月日」の表示がなくなったのは不親切だなあと思う。賞味期限、消費期限と併せて製造年月日が記載されていた頃は食品の賞味期間を正確に知ることができたので、その一・五倍くらいの日数までなら問題なかろうという判定を自信を持って下すことができた。たとえば、期限を一週間過ぎた食品を食べようかどうしようか考えるとき、賞味期間が三日間のものであれば「やめておこう」になるし、一ヶ月間のものであれば「余裕だわ」となる。
が、いまは製造年月日のかわりに買った日付を参考に賞味日数の見当をつけるしかない。

では、私はどういうものを期限後どのくらいまでなら気にせず食べてしまうかというと。

玉子
一週間。阿川さんは買ってから一ヶ月使うそうだが、私はそこまでは気分的に無理。
牛乳
開封済みなら五日くらい。未開封なら一週間。
納豆
もともと腐っているものだしね!と四日過ぎていたものを食べたが、なんともなかった。
ショートケーキ
「本日中にお召し上がり下さい」とあるのを三日後に食べた。美味しかった。
瓶詰めジャム
開封済みなら半年、未開封なら一年やそこいらは平気。阿川さんはジャムは半永久的に腐らないと信じて、使い切るまで捨てないそうだ。


製造者はこのくらいの余裕は持たせて期限を設定しているはずだと確信しているので、自分がチャレンジャーであるとはまったく思っていない。むしろ限界がこの程度の私はかわいいほうで、世の中にはもっとすごい人がいくらでもいるだろうと踏んでいる。
さて、冷蔵庫の中に期限切れの玉子と牛乳を発見しました。あなたは経過日数何日までなら食べちゃいますか。