「行き帰りの飛行機でタバコを我慢できないから、海外旅行に行けなくなった」なんて話を聞くと、非喫煙者の私は「情けないわね、たかが十何時間の話じゃないの」と思うのだけれど、きっとそれと同じに、ネットに興味のない人は旅行中の私の「ああ、パソコンに触りたいー!」という魂の叫びにも首を傾げるのだろうなあ。
しかし、重症のネット中毒患者にとって二週間近くもパソコンとご無沙汰の状態がつづくというのは、(わかる人にはわかってもらえると思うけれど)精神的にかなり窮屈なものがある。
なにも旅行中にも日記を書きたいと言っているわけではない。ただ、三、四日にいっぺんメールをチェックすることができたらどんなに心安らかに旅ができるだろう、というささやかな願いなのだ。昨日の夜からは禁断症状が出て、手がぶるぶる震えてきたくらいである。
……というのはまあ冗談だけれど、でもネットが恋しかったのは本当なので、「次回の更新は十八日」の予告をフライングして、いまシベリアの上空三万三千フィートのところでこれを書いている。
帰りの飛行機の中にネット環境があるというのは、私にとって機内食で蕎麦や寿司が出るより何十倍もうれしい。水を得た魚状態でキーボードをばちばち叩いている私をどうぞご想像ください。
とはいうものの、周囲に人がいるところではふだんのようにはとても書けそうにないので(しかも夫が隣に座っているのだ、隠密に事を運ばねばならない)、今日は雑談にお付き合いくださいませ。
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飛行機にはちょくちょく乗る機会があるが、いつもとても緊張する。
車や電車と比較すると圧倒的に安全性が高い乗り物だというけれど、いかに少ない確率であってもひとたび事故が起こるとほとんど助からない、というのが怖い。夫は出張で年間八十回飛行機に乗る人だけれど、私はひとりで出かけるときはできるだけ新幹線を使う。このあいだのJRの脱線事故のようなことがあってもやはり、水や空の上より地面に近いところにいたいと思う。
フランクフルトからロンドンへは空路で移動したのだけれど、乗り込むとき、飛行機に異常に詳しい夫が無邪気に言った。
「これ、昨日アテネで墜落したキプロス機と同じ型の飛行機だよ」
「…………。」
以前、マイアミから戻る飛行機に乗り込み離陸を待っていると、若い夫婦が連れた赤ちゃんが火がついたように泣きだしたことがあった。そのとき私は「ウナギが地震を察知するように、この赤ちゃんも動物的な勘で不吉ななにかを予感したのではないか」と本当に恐ろしくなり、赤ちゃんと一緒に泣きたくなった。そのくらい怖がりなのに、まったく余計なことを。
もちろん何事もなくロンドンに到着したから、いまこうして帰国の途につけているわけだけれど、あんなボロくて小さくて、しかも自由席の飛行機なんて初めて乗ったわ。
……とここまで書いたところで、室内の電気が消えました。日本は朝の八時半ですが、いま私がいる場所は消灯時間みたいです。
さっきごはん食べたばかりなのに太るじゃないか。しかたがない、ちょっと寝るか(いまからお仕事の方、すみません)。
そうそう。ラブレター・フロム・ドイツですが、無事すべての方にお送りすることができました。あらためて、リクエストありがとう!
早い時期に投函した方からはもう届いたと報告があり、驚いています。中国から送ったときなんて二週間くらいかかったのもあったのになあ。
今回はホテルのフロントに預けるということをせず、全部郵便局に持って行ったので大丈夫かとは思いますが、もし一週間経っても届かなかったら教えてくださいね。