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2005年07月21日(木) 合鍵の行方

大学時代の話を書くと、読み手の方から「私もひとり暮らしを経験してみたかったなあ」とちょっぴりうらやましがられることがある。
自宅生だった人には自宅生ならではの思い出があるはずで、楽しさや幸せの総量は変わらないと思うのだけれど、それでもやっぱり、もう一度あの頃に戻れるとしたら私はまたひとり暮らしを選ぶだろう。

あの四年間はまさに「青春」だった。
好きな男の子が私のマンションの近くのガソリンスタンドでアルバイトをしており、帰りによくビールを持ってチャイムを鳴らした。彼には故郷に恋人がいたので私の恋は成就しなかったのだけれど、そのときだけは枝豆をゆでたりしながら、私は“彼女”気分を味わった。
前期終了の打ち上げコンパのあと、送ってくれた同じゼミの男の子にマンションの前で突然キスされたこともあったっけ。彼は勢い余って歯が当たったことを「失敗した!」と思ったらしいが、私にとってあれは人生でベストスリーに入る忘れがたいキスになっている。
『午後の紅茶』のCFで松浦亜弥さんらが演じているああいう青春のひとコマは、ごくごく平凡な大学生だった私の生活の中にもちゃんと用意されていた。

・・・あ、いやいや、今日はそんな昔話をしたいのではないのだ。


先日、悩み相談のサイトで「恋人に合鍵をねだられて困っている」という二十二歳の女性の投稿を読んだ。
彼は好きな人とはいつも一緒にいたいという人。一方、自分は恋人ができてもひとりで過ごす時間は確保しておきたいタイプ。放っておくと毎日部屋にやってくるので、「今日は友達が泊まりに来るから」とときどき嘘をついて断っている。彼のことは好きだけれど、合鍵など渡したらさらに生活に入り込まれそうで不安だ------という内容だった(こちら)。

へええと思った。
私は十八で実家を出て十年ひとり暮らしをしたが、その間にお付き合いした男性には合鍵を渡してきた。渡すのをためらったことは一度もない。
そのほうが会うのに便利だったということもあるが、なにより、私は恋人と始終一緒にいても苦にならないタイプだったのだ。大学時代などは自宅生の彼が三日四日泊まっていくこともしょっちゅうあったが、「そろそろ帰ってくれないかなあ」と思った記憶はない。
いまだったら、ずっと一緒だと日記が書けないなあなんて思うのかもしれないが、当時はとくにしたいことがあるわけでもなかった。ひとりきりの時間はあって困るものではなかったけれど、「確保したい」というほど強く欲するものでもなかったのだ。

しかし、私が驚いたのは「プライベートを大事にしたいから、合鍵は渡したくない」という発言に対してではない。たとえ恋人であっても、ひとりになれる時間や空間がないと息が詰まるという人はいくらでもいるし、むしろ「自分」を持っていてえらいなあ、賢いなあと感心する。
私が怪訝に思ったのは、スレッドについた「合鍵を渡すと、自分がいないときに部屋を物色される危険がありますよ」というコメントに対し、投稿主の女性が「たしかに、その点が心配で渡したくないというのもある」と答えていたからである。

私はいままで一度たりともそんなことを考えたことがない。実際、合鍵を渡したからといってアポなしで部屋にやってきたり、断りなく私の留守中に出入りしたりする男性もいなかった。
「この人と別れるときは大変そうだとも思ってしまいます」という言葉にも少なからず驚く。
恋愛の場面に限らず、また男女を問わず、「この人、敵に回したら怖いかもな・・・」がふと頭をよぎる人に出会うことがときどきあるが、私はそういう相手に対しては問題なくやっているときから用心している。フレンドリーには接するが、関係が破綻したときに厄介なことにならぬよう見せる部分は限定する。
だから、留守中に部屋を探られる可能性を否定できないような人を好きになるなんて、私には考えられないのだ。

* * * * *

以前、鷺沢萌さんのエッセイに「別れるときに合鍵を返してもらうことに意味などない。いくらでも複製できるのだから、回収したからこれで安心、というものじゃない」とあるのを読んだときは、目から鱗が落ちたものだ。
私が「合鍵を返して」と言ったことがないのは、そういう理由からではまったくない。付き合っている間に送った手紙やプレゼントしたものと同じ扱いで、処分するなり思い出の品にするなり、相手の好きにしてくれればいいと思っていたからだ。
「回収しておかなくては別れたあと彼に部屋に侵入されるかもしれない」とか「合鍵の合鍵を作ってるかもしれないんだから、返してもらっても無意味」なんて夢にも考えたことがなかった。
しかし、そういうものでもないのだろうか。


ところで、ここまで書いてきて気づいたのだけれど、私は合鍵をもらったことがないのであった。
お付き合いしていたのは実家住まいの男性が多かった。ひとり暮らしの人もいたけれど、遠距離だったり会社の寮だったり。
みなさん、もらった合鍵は別れるときどうしているんですか? (後日談あります)